1. トップページ
  2. 「ねこ」との一夜

あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

投稿済みの作品

3

「ねこ」との一夜

16/04/24 コンテスト(テーマ):第106回 時空モノガタリ文学賞 【 ねこ 】 コメント:4件 あずみの白馬 閲覧数:1039

この作品を評価する

――午前2時・東名高速牧之原SA

 深夜のサービスエリアは、コンビニぐらいしかやっていないが、仮眠を取るトラックでそこそこの賑わいを見せている。

 俺はその駐車場にトラックを止めた。御多分に漏れず俺も仮眠するのだが……

「おじさん、ここで寝るの?」
「ああ、狭いけど我慢してくれ」
 姉ちゃんが俺のトラックの仮眠スペースに入る。20歳ぐらいの学生さんっぽい感じで、釣り目が特徴的だ。
「一緒に寝る?」
「狭すぎだろうが」
「このぐらいあれば大丈夫……」
 俺は猫が発情しているかのような誘惑に一瞬負けそうになる、が。

「姉ちゃん抱いても、誰も幸せになれねぇよ」

 つぶやくように言って、俺は運転席で横になった。なんで、猫なんて拾ったんだろう……

――3時間前・都内某所

 営業所で荷物を積んで走っていた俺は、ヒッチハイクをしている姉ちゃんを見つけた。

「(今どきヒッチハイクか、珍しいな)」

 好奇心って奴か、姉ちゃんの前でトラックを止めて話しかけた。

「よう、どこいくんだい?」
「どこでも……」

 まるで捨て猫のような寂しげな表情だ。変わった娘だなと思ったが、

「俺は岡山まで行くんだが……」
「乗せてくれませんか?」

 俺は姉ちゃんを助手席に乗せて走り出した。

 最初はほとんど会話は交わさなかった。だが首都高から東名に入った辺りで少しずつ口を開き始めた。

「おじさん、奥さんいるの?」
「まあ、いるがな」
「上手くいってる?」
「ん、まあな」

 実際、今朝出てくる前に奥さんと些細なことで喧嘩になって、そのまま家を飛び出していた。

「いいな、私は……」
「何かあったのかい?」
「うん……」

 彼女の話を聞くと、付き合っている彼氏に自分が本当に想われているのか段々と不安になって行き、そのことを話すと逆切れされてしまったらしい。

「不安になった、か」
「うん……、付き合いだした頃はずっと一緒にいようねって言ってたのにさ、私を放っておいて友達と出かけたりしちゃうし……」

 付き合ってると色々不安になるもんだ。だからあれこれ考えてしまうんだろう。

「なるほどな……。しかし逆切れされるとはおだやかじゃねぇなあ」
「だって、私が一番じゃないの? って聞いたらそうだって言うのに、どうして放っておくのって聞いたら、俺にだってやりたいことあるんだって言い出すし」

 俺にも思い当たる節はある。出かけるって言うと、たまにしか帰って来ないのになんで? と、奥さんが怒ることがあるもんだから、何度もこっそり遊びに行ったことがバレたのが喧嘩の原因だ。

「そうかい、まあでも、もう少しちゃんと話し合ってみたらどうだい?」
「話し合いって、でも……、もう彼の考えてることがわからない」
「そりゃ、そうだろうさ」
「? そりゃそうだ、ってどういうこと? 彼女なんだよ!? 一番大切に欲しいじゃない!」

 昔からよくある、でもみんな悩んで来た話。回答も一人一人違う。俺はこう答えた。

「互いの行動をどこまで許せるか、じゃないか? 姉ちゃんだって、たまには出かけたりしたいだろ?」
「そりゃ、まぁ……」
「だから、それぞれが自由にいる時間と、自分の時間をバランスよくってのが理想だな。彼氏さんだってそのために話し合わないと」
「話し合いって、じゃあおじさんはちゃんと話し合ってんの?」
「俺は……、話し合ったつもりなんだが……、喧嘩して出て来たんだよ」
「あら、おじさんもかっこつけておいて」
「だからよ、わかんねぇだろ? 話してみなきゃさ」
「そっ、か」

 その後は他愛も無い会話を交わしつつ、東名高速を西へ進んで行く。それにしても猫のようにかわいい娘だ。彼氏に大事にされて欲しいと願う。

 ***

 拾った猫ちゃんが聞いてきた。
「誰も幸せになれないってどういうこと?」
「互いに大切な人がいるのに、勢いで抱いちまったら、お互いの心にわだかまりが残っちまうだろう」
 柄にもない答えを返したところで彼女は寝てしまった。俺も寝ることにする。

――翌朝

 気付いたら朝7時半になっていた。彼女は……
 あれ? いない。仮眠用ベッドには手紙が一枚。
『おじさん、騙してごめんなさい。私、あなたの奥様の友達です。
 奥様から、あなたが他の女と遊んでいるんじゃ無いかって相談を受けたので、どんな人か確かめてあげるために一芝居打ちました。
 おじさんが身持ちの固い人だと分かって安心しました。奥様にもメールしておきました。
 あと、相談したことは本当のことです。ありがとうございました』

 奥さんからの「ごめんなさい」メールに「俺の方こそ」と返してハンドルを握った。

「(捨て猫かと思ったら飼い猫だったか……)」

 次の休みは、久しぶりに奥さんと出かけるか。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/04/26 そらの珊瑚

あずみの白馬さん、拝読しました。

いろいろな心のすれ違いを乗り越えて、互いの大切さに気付くのかもしれませんね。
最後のちょっとした種明かしが効いてました♪

16/04/28 あずみの白馬

> そらの珊瑚 さま

 ありがとうございます。

 心のすれ違いを乗り越えてこそ。というのはその通りだと思います。
 種明かし、もし抱いていたら……、と思うとゾッとしますよね。効いていたというのはうれしいです。ありがとうございます。

16/05/07 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。

ねこの解釈がいいですね! そう来ましたか。
夜の高速の空気感も感じましたし、ちょっとドキドキしました。

で、最後にしっかりどんでん返しもあるし。

お見事でした!

16/05/12 あずみの白馬

> にぽっくめいきんぐ さま
 どんでん返しがうまく決まって良かったです。
 夜の高速の雰囲気も出せていたとの評価もありがとうございました!

ログイン
アドセンス