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そがしさん

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500mlペットボトルからのメッセージ

16/04/07 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:0件 そがし 閲覧数:521

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 私のクラスには明くんというわんぱく坊主がいる。毎朝の職員会議では必ずといっていいほど明くんの悪事が議題にあがる。今朝も立ち入り禁止の屋上で給食までサボっていた明くんの話題でもちきりだった。屋上へ出る扉は施錠されていたので、雨どいを登り棒の要領で上がっていったというのだから驚き呆れて何も言えない。校長からは先生がしっかりしないから生徒が危険をおかすことになるのだとぐちぐち言われ、朝からどっと疲れてしまった。
 気を取り直してクラスに向かうと何やら近づくにつれて騒々しくなっていく。嫌な予感に慌てて教室に入ると、大きな蛇を持った明くんが逃げ惑うクラスメイトを追っかけ回していた。
 事情を聞くと、登校途中の田んぼ道で捕まえて持ってきてしまったらしい。
 これクラスで飼おうよ、と無邪気に笑うクラスの生き物係の明くんに卒倒しそうになりながら根気強く説得し、ひとまず蛇をランドセルにしまわせたころにはすでに一時間目が終わろうとしていた。
 騒ぎを聞きて駆けつけた副担任の先生にあとは任せなさい、と冷たい笑顔で教室を追い出された私は、明くんと二人で蛇を放しに田んぼまでやってきた。
「せっかく捕まえたのになぁ」
「蛇はダメよ、女の子が怖いって言っていたでしょ?」
「カッコイイのにな…あ、おたまじゃくしだ」
「クラスで飼うんだったら、それくらいがちょうどいいと思うよ」
 そっかー、と明くんはいままで大切に持っていた蛇をぽいっと田んぼに投げ捨てると、どこかから適当に拾ってきたペットボトルで器用におたまじゃくしを捕まえていった。あっというまに数匹のおたまじゃくしを捕獲した明くんは、嬉しそうにペットボトルを下から覗いていた。
「リョウセイルイってやつだよね、まえ学校でやった」
「そうそう、大きくなるとエラ呼吸から肺呼吸になるやつね」
「あ、これ見て先生。こいつ泳ぐの早くて捕まえるのすごい大変だった」
 と、明くんが指差したのは、捕まえた中でもひと際元気に泳ぎ回る一匹の小さなおたまじゃくしだった。私はこのおたまじゃくしを明二号と勝手に命名した。
「あ、足が生えかけてるね。もう少ししたらカエルになるね」
「だからこいつこんな気合入った泳ぎをしてたのか。さらば我が尾びれ生活って」
 さあ、そろそろもどらないと三時間目が始まってしまうからと、いつまでもおたまじゃくしをとり続けようとする明くんを引き連れ学校へ戻った。
 放課後、私は一人教室で午前中に手がつけられなかった事務仕事を片付けていた。パソコンに向かっているとあっという間に夜は更けていった。一旦疲れた目をモニターから離すと、不意に教室の後ろに置かれたペットボトルが目に入った。午前中明くんがつかまえてきたおたまじゃくしが中で泳いでいる。その横にはサワガニが飼育されており、そのまた横では銭亀が飼育されている。全て明くんがつかまえてきたもろもろである。もはや教室の一部は明くんの水族館と化していた。
 今日のように子供と接していると、不意に考えさせられることがある。
 これまでの人生の過程で何かの自由を失い、新たに変わりの何らかの自由を得るという事象は幾度となく経験しているが、その時々でしか得られない自由を果たして私はどれだけ堪能できていただろうか。
「私はその時々の私の自由をより貪欲に堪能すべきなのだ…そうよね、明二号」
 明二号は元気な泳ぎをもって私の言葉を肯定した。そう解釈するのも私の自由なのだ。

 


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