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みやさん

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空へ行くのよ私たち

16/04/03 コンテスト(テーマ):第105回 時空モノガタリ文学賞 【 水族館 】 コメント:0件 みや 閲覧数:445

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館内にけたたましいサイレンの音が響きわたる。警報を感知すると、警備会社の警備員たちが十分程でここに到着するのは想定内なので、飼育員たちは手際よく、大きな水槽から持ち運び出来る小さな水槽に約三百匹の小さな稚魚のスカイフィッシュを素早く入れ替えていき、その小さな水槽を台車に乗せて水族館の裏口に待機している消防車の所まで慎重に運んで行った。

「皆んな、本当にご苦労様」
消防車の横で待機していた博士はスカイフィッシュを運んで来た飼育員たちを労い、受け取った水槽のスカイフィッシュの入った水を消防車の水のタンクに愛おしそうに注ぎ入れた。博士、警備員が到着しました!見張りをしていた飼育員が大声で叫びながら走って来た。早く、急いで行って下さい!

消防車が水族館の裏口から静かに出発すると、警備員たちを足止めする為に飼育員たちは正面玄関に向かった。
「不審者は侵入していません」
「警報は誤作動です」
「何も問題ありません」
飼育員たちは口々に主張したが、スカイフィッシュお披露目のレセプションが三日後に控えているこの大事な時期の為に警備員たちは念の為に中を調べさせて貰います、と館内に入る事を拒む飼育員たちを押し退けて水族館内のラボのスカイフィッシュの無事の確認を試みたが、水槽の中には勿論一匹足りともスカイフィッシュは存在していなかった。

「どうなってるんだ!スカイフィッシュが一匹もいないじゃないか!」
警備員たちは狼狽した。
「…今頃空でも飛んでるんじゃないですか?何せ空飛ぶ魚、スカイフィッシュなんだから」
飼育員たちは楽しそうに言った。

水質汚染、だけが全ての要因では無いのかもしれないが、海や川から魚たちが姿を消してどれ位経つのだろうか?魚たちには海や川は生き辛くなり、今では人工的に養殖しなければ魚という生物を食べたり見たりする事は不可能な事になっていた。

水の中が住みにくいのなら、空の上で住めばいいー
水陸両用魚スカイフィッシュの開発に何十年も費やし、そして誕生に成功した海洋学の博士がそう思い付いたのが、スカイフィッシュの開発の始まりだった。研究に博士は没頭し、人生の全てを費やしてきた。スカイフィッシュの研究、だけが全ての要因では無いのかもしれないが、博士は六十を超えた今でもずっと独身のままだ。博士の頭の中はスカイフィッシュの研究を成功させる事しかなかった。
太古の両生類だった頃の魚には肺があり、肺呼吸が出来ていたのだという。肺呼吸をした魚が空を泳ぐ、空の水族館ーなんて素晴らしい光景なのだろう。

「博士、なんて事をしてくれたんだ!今すぐスカイフィッシュを水族館に戻したまえ!スカイフィッシュの誕生に成功した君の成果には本当に感謝している。だが、もうスカイフィッシュは君だけのものではないんだ!三日後にはレセプションが控えているんだぞ!」
スカイフィッシュ失踪の報告を警備会社から受けた水族館の館長から博士のスマートフォンに連絡が入った。
「…スカイフィッシュはもう私の子供の様なものです。だから、水族館の水槽の中ではなく、自然の空の中で生きていって欲しいんです」
「空に放して、死んでしまったらどうするんだ?」
「それならそれで構いません。自然淘汰されるのなら、それまでです。人工的に生かされているだけなら、何の意味もありませんから」
そう言って博士はスマートフォンの接続をオフにして、急いでくれて消防車の運転手に指示を出してサイレンを鳴らし猛スピードで消防車を走らせ、町外れの小高い丘に到着した。

水の中にいる魚を水中外に解き放した場合、水分が完全に蒸発する為の時間は長ければ長いほど良い。そして身体の表面の水分を失ったスカイフィッシュはエラ呼吸では無く肺呼吸を始め、乾燥したヒレで空中を泳ぎ出すはずー

小高い丘に停車された消防車のホースから、博士の合図と同時にタンクから約三百匹のスカイフィッシュたちが、太陽の光を浴びてキラキラと光る水と共に鮮やかな放物線を描いて一斉に空中に放出された。

「…飛べ!」
それは博士の、飼育員たちの願いだった。三日後のレセプションなど待たなくても、君たちはきっと飛べるはず。空を飛び、泳ぎ、そして生きていけるはずー

空中に解き放たれたスカイフィッシュたちを覆っていた水分はすぐにポタポタと大地を目掛けて落ち始めた。今まで水に守られていたスカイフィッシュたちは慌てふためいた。息が出来ないよ、水中ではなく空中を泳ぐなんて無理だよ。どうやって息をするの?どうやって空を泳ぐの?

大丈夫、口で空気を吸って、ヒレで空気を掻くんだよ。やり方なら博士に何百回、何千回も聞いてるからね。水の流れに身を任せるのと同じ様に空気の流れに身を任せるんだ。そう、空の泳ぎ方なら産まれる前から知っている。ねえ、空へ行くのよ私たちー


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