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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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アーネストとロジー

16/03/07 コンテスト(テーマ):第104回 時空モノガタリ文学賞 【 映画 】 コメント:2件 ちほ 閲覧数:750

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 ボクが家に帰ると、二階への踊り場で、四つ年上の兄さんが、模型飛行機を手にいかに美しく飛行させようかと思案していた。彼は「おかえり。この飛行機をどう思う?」と問いかけてきた。「かっこいいよ」と答えると、「ほんとに」と目を輝かせた。
「うん、兄さんは器用だ」
 そう答えて、台所のドアを開けた。テーブルが見えて……部屋には入らず慌ててドアを閉めた。とんでもないものを見てしまった。
「何をしているのさ」
 模型飛行機をボクの頭に着地させながら兄さんがささやいた。ボクは、もう一度ドアの隙間から覗き込み、チョコレートケーキを前にニコニコしている妹を見た。ボクは勢いよく台所に入ると、居間から台所に戻って来た母さんに激しく訴えた。
「生クリームのケーキにしてくれる約束、忘れたの!」
「アニスは生クリームが食べられないのよ。しかたないじゃない」
「今日は、ボクの誕生日だよね。アニスのせいで、ケーキは一年中、チョコレートケーキで我慢してきたけど。ボクの誕生日だけは、生クリームのケーキと思ってたのに」
「あぁ、そうだったわね。忘れていたわ。チョコレートケーキでもいいわよね?」
 一瞬ボクは何を言われたのかすぐには理解できず、ポカンとした。忘れていた? 五歳のアニスが泣き出した。
「生クリームのケーキなんか食べなくてもいいのよ、アニスちゃん」
 やさしい声で妹をなぐさめる母さんの声に、心が爆発した。ボクは、無我夢中で家を飛び出した。
「待てよ、アーネスト!」
 兄さんが、ボクの腕を掴んだ。
「アーネスト、来年はぼくがケーキを作ってあげるよ」
「生クリームの?」
「うん。本を見てやってみればできないこともないだろう。それで、いいね?」
 ボクは、ポロポロ涙が出てきた。そんなボクに、兄さんは大切な模型飛行機を差し出した。
「ほら、誕生日プレゼントだ。もう泣くなよ。せっかく野外映画もあるのだし」
「何の映画?」
「君の好きな映画監督ジャック・タチだよ。ぼくも楽しみだ。一緒に見に行こう」
〜〜〜〜
    THE END

 映画が終わり、映画館内が明るくなる。不思議なことに、生クリームの香りがする。年若い映写技師は仕事を終えると階段を下り、ただ一人の客である私の傍らに片膝をついた。
「ずっと訊きたかったのですが、何度もこの映画を見ているあなたにとって、この映画はどんな意味があるのですか。毎回どんな思いで見ていたのかをお訊きしたくて。前半は特に問題のない映画なのに、後半は準主役の少年の兄の姿が消えているし、葬式のような暗さです」
 私は、手元の古い模型飛行機を見つめて答えた。
「アーネスト役の私は、兄役の天才子役のロジーが好きでした。撮影以外でも私を可愛がってくれて。彼は撮影中に行方知れずとなり、亡くなったと噂が流れました。誰もが『撮影を続行する』と命じた監督に抗議し、そんな非難の嵐の中で、後半はロジー抜きの映画となって、不自然とはいえ完成しました。十三年前のことです」
 映写技師は黙りこみ、そしてそっと語り始めた。
「僕は……ロジーは、映画監督と大喧嘩して、撮影現場から消えた」
「えっ」
「監督は、貧しい人々に『この映画は必ず大当たりして、出資者は大金持ちになる』と説明して製作費を集め、その一部を監督の特権だと私的に流用し、そのことをさも自分は知恵者のごとく、うっかり子役の僕に自慢した。僕は、それが絶対に許せなかった。子役の僕が途中で消えれば映画製作は中止になり、被害は広がらないと思った。だが逆に監督は悪事がばれないように、僕が居なくても撮影を続け映画を完成させた。一方で、監督は『ロジーは死んだ』と噂を流し、悪事を知った僕の行方を追ったので、僕は身を隠さざるを得なかった」
 兄と慕っていた、今は映写技師のロジーを見つめた。思いがけない再会に震える。
「死んだとばかり思っていました、兄さん」
「あの映画は僕が降りなければ完璧だった、と監督はずっと僕を呪っていたようだ。彼が亡くなったと新聞で知り、やっとあなたに声をかけることができた」
 私は、ロジーの手をとった。
「あなたは天才子役だった」
「監督に刃向かうような傲慢な子役は、天才ともてはやされても失格だよ」

「……という小説を書き上げたのだけど、映画化したい。どう思う?」
 親友のロジーに訊ねた。薄暗いロンドンの路地裏。木造二階建ての一室で、気の合うボクたちは二人で暮らしていた。生活は苦しかったけれど、いつか自分の小説を映画にして大金持ちになるという夢を、ボクは持ち続けていた。
「アーネスト、どうして君の書く小説の登場人物は、いつも僕らの名前なんだい?」
「占いで、二人とも金運が最高だったから!」
 笑いをかみ殺すロジーを、ボクはキリッと睨んだ。
「馬鹿にすると、俳優として使ってやんないぞ!」


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このストーリーに関するコメント

16/03/17 瑠真

シンプルに3段構造っていうのは、ともすれば「力技」とも受け取られがちでしょうが、自分としてはむしろ、そういう持って行き方が「勝負に出た」カンジで、良いと思いました。

16/03/18 ちほ

瑠真さま
コメントありがとうございました。
シンプルに3段構造、みたまんまの単純構造。
それを受け止めて下さった瑠真さまには、感謝と共にホッと致しました。
内容的に他の部分で複雑化してみたつもりです。
瑠真さまに読んでいただけて、嬉しいです。
ありがとうございました。

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