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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
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風は何色?

15/08/20 コンテスト(テーマ):第八十九回 時空モノガタリ文学賞【きっかけ】〜松山椋君の足跡 コメント:10件 鮎風 遊 閲覧数:1303

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 誠実そうで、なかなかのイケメン。そんな男が、まるで判で捺したような毎日、夕方六時にはきっちりと勤めから帰ってくる。
 時間は充分ありそう。だが女の影はない。むろんデートに出掛けるところを見たことがない。三十歳前の割には、ちょっと気楽に暮らしすぎじゃない。
 これが同じアパートに住む者たちの、高池陽馬に対する印象だ。誰かなんとかしてやれよ、とのお節介な声も聞こえてくる。
 しかし、大きなお世話だ。
 見掛けは飛び切りの暇人だが、陽馬の脳はいつも沸騰し、きりきり舞い。なぜなら作家志望、小説を書くことに精魂を傾けているからだ。
 最近は出版しなくとも、ネット小説サイトに投稿できる。そして多くの閲覧者に読んでもらえ、時としてはコメントまで頂ける。自作品を世に出すことが実にイージーになった。
 だが反面、これは陽馬のライバルがごまんといるということであり、とにかく間断なく新作がUPされてくる。
 その中には駄作と思われる小説もあるが、ほとんどの作品は天晴れだ。そして時としてキラリと光る物語、傑作に出会うことがある。明らかに己の才能からは産み出せない書きっぷりだ。
 結果、陽馬はこの後必ず惨めな自己嫌悪に陥る。
 苦しい。だが最近、こんな打ちのめされた心情からうまく抜け出せるようになった。というのも、やっぱり自分風味の物語をコツコツと書き続けるしかない、と覚悟したからだ。いや、創作活動においては、こう考えないと次作品へと進めない、てなところもある。
 それにしても、時間を持て余してるって? とんでもない。まさに格闘の日々だ。今日も執筆に取り組んでいる。
 小説を書き始めて五年、未だ完成をみないこだわりの一作・『風は何色?』の推敲だ。
 しかし、考えてみれば、いつまで経ってもこの純愛物語は未完のまま。その理由は、陽馬に熱い恋愛経験がない。それにも関わらず、言ってみれば憧れだけでストーリーを組み立ててきた。そんな妄想恋愛小説、やっぱりオチが決まらないのだ。
 それでも陽馬は思う、執筆活動はワイン作りに似ていると。
 良い葡萄、つまり良好なネタを集め、搾り、物語として仕込む。この後、澱(おり)を取り除き、濾過。あとは熟成させる。そして試飲すれば、これが決まってとんでもない風味とくる。そこでまた澱を取り、熟成を繰り返す。このようにして完成度上げて行く。
 されどもこの純愛もの、もう何回澱取りをし、濾過してきたことだろうか。しかし捨てられないのだ。なぜならこの作品に没頭する時、陽馬は主人公と同じ熱くて純な気持ちになれるからだ。そして今宵も…。

 二人の最後の思い出にと、夏の終わりに椋太郎と沙梨は高台へと昇ってきた。そこからは、神が碧い空からぽとりと落としたリング、そんな光る湖が望める。
「あら、綺麗!」
 沙梨は声を上げ、柵から身を乗り出し、それを掴み取ろうとする。
「あっ、危ない!」
 椋太郎は後から抱え込む。
「大丈夫よ」
 沙梨が腕を払う。この強がりはいつものことだ、しかし、瞳は潤んでる。
 高校時代から育んできた恋、もう十年以上の歳月が流れた。そして今、椋太郎は仕事で海外へと飛び立とうとしている。一方沙梨は老舗和菓子屋の一人娘、この地から離れられない。当然この別れが…。
 こんな宿命を背負ってしまった二人、だが充分に大人だ。
「私、田舎から、椋太郎を応援してるから」
「日本一の和菓子を作る、その夢に向かって頑張れよ」
 まったく物わかりが良い会話だ。しかし、それを封じ込めるように、背後からヒグラシの声が…、カナカナカナ。
「もうすぐ秋ね」
 この呟きの一瞬に、白い帽子に纏わる黒髪がサラサラと流れる。湖からの涼風、沙梨は濡れた頬をそれに晒し、訊く。
「この風は何色かしら?」
 椋太郎は真意がわからない。それでもこれは沙梨の心奥の叫びでもあると感じ、真摯に思考する。しばらくの沈黙、その後椋太郎は一筋の松葉を木から抜き取り、くるりと輪にする。
「風の色はエバーグリーンだよ。さっき沙梨は手を伸ばし、湖を掴もうとしていただろう、さっ、手を広げて」
 沙梨は何ごとかと驚くが、それでも言われるままに手の平を差し出す。そこへ椋太郎は「風が沙梨に届けてくれたよ」とポトリと落としたのだ、エバーグリーンのエンゲージ・リングを。
 こうして二人は純愛を卒業し、永久の愛へと旅立つこととなった。

 今宵陽馬は物語をこう締め括った。そして満足げに一つ息をフーと吐き、独り言ちるのだった。
「夏の終わりに、リングのような湖から吹き来る風、女は黒髪を流し、この風は何色かしらと訊く。これらのシーンすべてがきっかけとなり、男は女への永久の愛を決意した。うーん、妄想恋愛小説にしては上出来だ! そうだ、俺もこのワインの完成をきっかけに、椋太郎のように、もっと一途に生きてみよう」


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このストーリーに関するコメント

15/08/22 松山

鮎風 遊さま
まずはお礼を申し上げます。
『椋』の字を使って頂いたこと、椋のラッキーカラー『グリーン』を使って頂いたこと・・・
以前、椋が言ってましたよ、『小説と良いお酒は一緒だよ』とその時私は訳が分からずいましたが、今日、解かることが出来ました。
『風は何色?』素晴らしいエンディングですね。

15/08/23 鮎風 遊

松山さま

コメント頂き、まことにありがとうございます。
この短い小説は、
作家志望であった松山椋さん、今もどこかで執筆活動に頑張っておられるのだろうなあと思い、
失礼ながら、あまり暗くならないタッチで書かせてもらいました。
ご冥福をお祈り申し上げます。

15/08/24 そらの珊瑚

鮎風 遊さん、拝読しました。

ワインのくだり、なるほどなあと思いました。
私も、小説を書くことの端っこでいいから、これからも頑張っていきたいなあと思わせていただきました。

15/08/24 泡沫恋歌

鮎風 遊 様、拝読しました。

恋愛小説は何度も書きましたが、正直、難しいです。
やはり読者に感情移入して貰えるかどうかが勝負で理解して貰えないと・・・
思い切り滑ります!

「風は何色?」たぶん心の色でしょうね。

15/08/25 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

どこかで執筆を続けているであろう松山さん、とても良い設定だと思います。

小説はワインに似て、葡萄の品質から熟成まで、そのどれもが味に重要な影響を与えますから、少しも気が抜けません。私は安くて美味しいチリのワインなど好きですが、そういう作品が書きたいです。

エバーグリーンの湖に似合うエンゲージリング、風の色、素敵すぎます。こんな格好いいプロポーズいいなあ。恋愛小説苦手な私、憧れますわ。

15/08/28 光石七

拝読しました。
主人公の物書きとしての姿勢に親しみと尊敬の念が湧きました。
執筆活動はワイン作りと同じ、なるほど…… 自分は仕込みも濾過も熟成も不十分だなあと痛感しますが、試行錯誤しながら少しでも完成に近づけたいものです。
『風は何色?』のラスト、すごく素敵でため息が漏れてしまいました。書き上げた主人公の決意もいいですね。

15/08/31 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

コメント、ありがとうございました。
そうなんです、ずっと思ってました、ワイン造りといっしょだと。

15/08/31 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメント、ありがとうございます。

そうですね、恋愛ものは難しいですね。
どこまで情感を醸し出させるか、張り切り過ぎるとエロ本になりますし。
いずれにしてワインと同じく、風味ですよね。

15/08/31 鮎風 遊

草藍やし美さん

コメント、ありがとうございます。

エバーグリーンのエンゲージ・リング、
松葉で、最近の女性は喜ばないのではと思いながらも、
妄想恋愛小説のイキオイで書かせてもらいました。

15/08/31 鮎風 遊

光石七さん

コメント、ありがとうございます。

そうなんです、実は風には色がついてまして。
こんな場面で吹く風の色は何色かなと思い、綴らせてもらいました。
いい作品を書き上げて、ワイン色の風に吹かれてみたいものです。

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