松山椋さん

地獄からやってきた文学青年です。結局名前元に戻しました。

性別 男性
将来の夢 涙を流さないようにする
座右の銘 お前の背中はまるででたらめやぞ

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流転

15/05/05 コンテスト(テーマ):第八十二回 時空モノガタリ文学賞 【 海 】 コメント:2件 松山椋 閲覧数:5029

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 あ、はい、失礼します。すみません、失礼します。本日は面接の機会をいただきありがとうございます、葛西です。いやあ、海の家の面接ってこんな時期にするんですね。まあそりゃそうか。今から従業員集めておかないと夏場に間に合いませんもんね。ええ、わかります。世の中にはこんな求人もあるんですねえ。こんな世界もあるんだなあ、へえ。
はい、名前は葛西道蔵、26歳です。ちなみに聞かれる前に学歴を言っておくと、東京の某国立大学を主席で卒業しました。某「国立」大学です。お見えになると思いますが僕は常に胸ポケットにイチョウの葉っぱを忍ばせています。察してくださいよ。あ、ありがとうございます、いえいえ、あくまで僕はやるべきことをやっていただけで。別にそんなにすごいわけではないですよ。

 え?学歴はいいから職歴を教えてくれ?わかりました。大学を卒業してから僕は都内最大手のメガネチェーンに入社しました。まあ本社勤務が希望だったのですが最初は店舗の売り子からやってくれってんで、多摩のほうの店に配属になったわけですが、とにかく仕事ができるできる。自販機にみんなの分のジュース買いに行ったり、視力測定の時に片眼を隠すあの棒をお客さんの眼にあてがう人の補助をしたり、トイレのスッポンをドラッグストアに買いに行ったり・・・ええ、大忙しです。同僚たちも僕に嫉妬していたと思いますよ。なんたって東大、失礼、某国立大学法学部を主席で卒業したエリート新卒が入ってきただけで大事件ですよ。まともな人間なら自尊心ボロボロになりますよ。まったく、僕も罪作りですね。そんななか、あの事件が起きたんです。あ・の・じ・け・ん。ある日うちの店に髪の毛を紫に染めたオールド・ミスがメガネを買いに来たんですね。僕が接客したのですが、赤い若作りなフレームを選ばれて。それでこう言うんですね。「度を思いっきり強くしてくれ。」と。ああこの人わかってねえなあ、度が強すぎると頭が痛くなってくるのに、と思いまして、こう言ってやったんです。「世界が見えすぎると生きづらくなりますよ。」と。そうしたらオールド・ミスさん、怒っちゃって。視力測定もせずに帰っちゃったんですよ。で、翌日店長に苦情の電話を入れたらしく、同僚たちの間で、いつのまにか僕のあだ名が『✝紅蓮の堕天使✝』になってました。僕のことを中二病だと言いたいんですね。僕は怒りましたよ。まがりなりにも東大卒、失礼、一流大学卒の僕をこんなに邪険に扱いやがって、と。その日のうちに辞表を提出してやりました。ええ。

 メガネチェーンの次は南千住の町工場に勤めはじめました。面接なんか一発合格でしたよ。なんたって法学部卒の司法の申し子ですからね。司法試験はあえて受けませんでしたが。まあ面倒だったのでね。すみません話がそれました、とにかく町工場の事務屋として勤め始めたのですが、ここでも仕事ができるできる。朝なんか重役出勤してたのですがそれでも掃除を任せられましてね。プレス機なんかには触らせてもらえませんでしたが床にモップかけたり机を拭いたり窓ガラスをクリーナーで磨いたり。そういえば僕握力強いんですよ。最近測ってないんですけど多分左手だけで800くらいありますね。で、力が強すぎるあまりよく窓ガラス割っちゃいました。まあこれくらいのミスだれでもやりますよ。うん、とにかく僕は町工場の掃除屋としてこれから身を立てて、いつか自分で起業してやるぞ、と決意を固めたわけです。そんな時にあの事件が起きたんですね。僕、かなりコーヒーに凝ってまして、コーヒーショップで100グラム15000円の豆買ってきて自分で挽き、カリタ式のドリッパーでコーヒーを淹れて飲むのが好きなんですね。仕事中も飲みます。ええ、一日90杯くらい。するとどうなるか。小便が近くなるんですね。しかも大量に出る。ひっきりなしに便所に行くわけですが、その姿を見ていた社員たちによって、ええ、汚い話ですが、あだ名をつけられました。『南千住の紅鮭』と・・・。鮭が精子を放出するように小便してるからですね。僕はそのあだ名を知ったとき、怒り狂いましたよ。暴れてやりました。よいか窓ガラスとはこうして割るのだとか叫びながらガラス全部割って、応接室のソファーをむんずと掴んで身体をぐるぐる回し遠心力を利用して放り投げ、バットを持って社長室に立てこもりました。はい、警察呼ばれてその日のうちにクビになりました。



 結局、みんな僕の学歴を甘く見ていたからこのような結果になったんだと思いますね。東大法学部卒のスーパーエリートを軽んじちゃいけません。ええ、だから、入れましたよ。尼崎の彫り物屋で。900万かけて。和彫りで。背中に。デカデカと。『高学歴』と・・・。見ますか?いいですか。そうですか。


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このストーリーに関するコメント

15/05/22 光石七

拝読しました。
このどこまでもポジティブな自尊心、人間離れした握力に度を越したコーヒー飲用、めちゃくちゃな言動、さらに背中には……。もう、あっぱれというしかありません(笑)
これで採用されるかははなはだ疑問ですが、言い聞かせて変わるような主人公ではなさそうですし、独自の路線を貫いてほしい気もしますね。身近にいたら大変そうですが(笑)
面白かったです。

15/05/29 松山椋

光石七さま
いつもコメントありがとうございます。嬉しいです。
なんだか自分の小説がマンネリしてきた気がするんです。最近の悩みです。
本当にいつも暖かいコメントありがとうございます。

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