1. トップページ
  2. 夕学路。

滝沢朱音さん

♦️第2回ショートショート大賞・優秀賞 http://shortshortawards.com/results-2017/ ♦️『時空モノガタリ文学賞作品集#零』(書き下ろし含む3作掲載) https://www.amazon.co.jp/gp/product/4908952000/ ♦️時空モノガタリ入賞作「このP−スペックを、唯、きみに。」幻冬舎パピルス掲載 http://www.g-papyrus.jp/backnumber59.html ♦️Twitter @akanestor ♦️作品添付画像:『写真素材 足成』

性別 女性
将来の夢 作家として在りたい
座右の銘 http://akanestory.blog.fc2.com/

投稿済みの作品

3

夕学路。

15/04/06 コンテスト(テーマ):第七十九回時空モノガタリ文学賞 【 通学路 】 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1165

この作品を評価する

 僕の通学路は、およそ三キロの山道だった。

 小学校低学年の子どもにとっては、酷な道だ。現代ならとても一人では通わせないだろうが、今よりのどかな時代の片田舎、当然のように僕はその道を毎日歩かされていた。

 通学路のほとんどは、舗装もされていない土のままの山道で、それでもいちおう通学路であることを示すためか、中央に白線が引かれていた。

 放課後少し遊びすぎると、夕暮れの中、そんな心細い道を一人でとぼとぼと帰るはめになる。その日もついつい帰りが遅くなった僕は、日の沈む速さにおびえながら家に向かった。

 曲がりくねった山道の先が見えるのが怖い僕は、足もとだけを見て白線の上を歩くことにしていた。それはまるで、「ここからはみ出せば、下に落ちて死んでしまう!」くらいの真剣さだったにちがいない。

 右、左、右、左、と、一歩ずつ交互に足を出して歩く。ときどき顔は上げるものの、両側から迫る木々に何かを見てしまいそうで、また足もとに視線を落とす。そうして歩けば、いつかは家に着けるのだ。

 帰り道の目印の一つにしている駄菓子屋の前に来たとき、店はもう閉まっていた。

 お小遣いもない僕は、何かを買えるわけじゃない。それでも、人の気配を感じられるだけで安心できる場所だった。その店が閉まっているということは、いつもよりかなり遅くなってしまったらしい。僕はあわてて足を早めた。

 その先には、昔の防空壕の跡。これも、いつも目安にしている場所だ。だけど、暗い穴から誰かが出てくるんじゃないかと、いつも以上に不安でたまらない。誰も出てきませんように。何も出てきませんように。僕は祈りながら歩く。



 突然視界が開けた。

 ここから二百メートルほどの直線は、道幅が少し広くなり舗装もされている。通学路の中で、僕にとって安心できる箇所だった。ホッとして視線を上げる。

(あ……)

 そのとき、直線の先に、黒いランドセルを背負った男の子の姿が見えた。

(あれは、ハルキちゃんだな)

 ハルキちゃん、もっと早い時間に先に帰ったはずなのにおかしいな。どこで道草くってたんだろう。

 僕はうれしくて、つい小走りになった。早く追いついて一緒に帰ろう。そうすれば、もう怖くない。



「おーい……」

 黒いランドセルに向かってそう声を出そうとした瞬間。



「おーい……」

 全く同じタイミングで、後ろから声が聞こえた。



(あれ……?)


 びっくりして僕は振り返った。でも、後ろには誰もいない。

 もと来た道、ほの暗くて細い山道の先の闇をしばらく見つめていたけれど、やっぱり誰もこない。




 足が震えた。あわてて前を向く。

(早くハルキちゃんに追いつかなきゃ……)




 ところが。



――前にも、誰もいない。



 さっきまでいたはずの、ハルキちゃんの姿も。




(どうして……?)

 得体のしれない恐怖。



 早く帰りたい。走って帰りたい。だけど、あたりはもう夜に近い闇だ。


 しかたなく僕は、また足もとの白線に視線を落とす。ぼうっと浮かぶその白が、唯一の道しるべ。


 右、左、右、左。
 右、左、右、左。


 だいじょうぶ。
 これを繰り返していけば、いつか家に着く。


 右、左、右、左。
 右、左、右、左。


 とぼとぼ、とぼとぼ。
 とぼとぼと、僕は、ただひたすら歩いた。






 こんないい年になってからも、僕はそのときのことをふと思い出すのだ。

 右、左、右、左。
 右、左、右、左。

 だいじょうぶ。
 これを繰り返していけば、いつか家にたどり着くのだ、と。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

15/04/07 メラ

滝沢さん、拝読しました。
なんか、こんな経験あったなぁと思いながら読みました。まあ、私は比較的街中育ちで、そんなに歩かなかったけど。
薄暗い夕暮れ、帰り道にふとそんな不安に駆られる。大人になってもそういう事ってありますよね。

15/04/08 そらの珊瑚

滝沢朱音さん、拝読しました。

夕暮れの通学路を歩いていた過去から、一瞬で今という地点に戻り
大人になっても生きている限り、ひとりで歩いていかなくてはならないという
孤独のようなものを感じてしまいました。

15/04/10 滝沢朱音

>志水さん
読んでくださってありがとうございます!
このテーマ、いろいろと迷った挙句、いつもとは違う感じの掌編に挑戦してみました^^;
なんとなく、本質的な恐怖みたいなものを…と。
全て見たことのない想像の世界だったので、リアリティに欠けるかなと懸念していたのですが、
そういっていただけてホッとしました。

>メラさん
お読みいただきありがとうございます!
私も街中育ちなので、実際にはこういう体験はないのですが、
本質的な寂しさ、心細さ、子ども時代の恐怖心みたいなものを
ただ、たんたんと書いてみたいと思いました。

>そらのさん
コメントいただきありがとうございます!
子ども時代の恐怖心って、大人になって人生を生きていくのと同じかもなーって
なんとなく思いながら、ぽちぽちと書いてみました。

15/04/28 たま

滝沢朱音さま、拝読しました。

ひとつだけ気になるのは、舗装もしていない道にどうやって白線をひくのか? ということです。
舗装のしていない道って、砂利道や、粘土質の道です。そんな地面に白線をひく方法はないのです。ひいたとしても雨が降れば消えてしまいます。
でも、通学路であることを示すために、先生や父兄が、運動場のような石灰の白線をひいていたというのは有り得ると思います。たいへんな作業になりますが。
片道三キロというと、子供の足で1時間はかかります。健康な大人は1時間で4キロ歩きます。
リアリティーというのはそのような雑学から生まれます。何にでも興味をもって、見たり、聞いたり、読んだり、そうして雑学を身につけてください。作家は雑学王なのです。
「夕学路」というタイトルに惹かれました。
とても素敵です。ひとが一生歩きつづける道、そんな想いが湧きます。主人公の幼い頃の思い出の道を、象徴的に書いていますね。このあたりはとても文学的です。ハルキちゃんの登場(ほんとは主人公なのかもしれないけど)も、とてもいいですし、駄菓子屋とか、防空壕も効いてます。
後半は「詩」になりましたね。改行を繰り返した目的はなんだろうということです。ですから、ぼくは詩だと思いました。試みとしてはとてもいいと思います。
この掌編から、作者自身の「夕学路」が始まります。ぜひ、それを書いてくださいね。ぼくだったら200枚を超えそうだけど、滝沢さんはまだ若いから100枚ぐらいかな・・・^^ 先は長いですよ、焦らずに書いてくださいね。
本日は、辛口で失礼します。

15/04/30 滝沢朱音

>たまさん
コメント、そしてすばらしいアドバイスをありがとうございます!
確かにそうですね、いろいろと設定が甘くてごめんなさい!
聞きかじりの断片から想像で書いたので、とてもためになりました(*@_@)
通学路に白線を引いてたという話は本当らしいので、たぶん石灰の白線だったのかな。
でもそうなると、3kmの設定ではたいへんな労力になっちゃいますよね(笑)

ハルキちゃんと思った前の子は、少し先(未来)の自分。
後ろから呼びかけたのは、少し前(過去)の自分。
何も見えない、得体のしれない恐怖。一歩ずつ進むしかないのだ。
たぶん、そんなことを書きたいと思ったのですが、力及ばずでした…
はい、今後に活かしたいと思います♪

辛口なんてとんでもないです!
このような率直なアドバイスをいただけて、ほんとうにうれしいです。
よろしければまたぜひご意見をお聞かせくださいね。お待ちしています!

ログイン