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小李ちさとさん

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将来の夢 砂漠で死ぬこと。
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【二千のエッセイ】1465の向こう側

14/09/19 コンテスト(テーマ):第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】 コメント:4件 小李ちさと 閲覧数:812

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さて舞い降りたものは翅の欠けた蝶であったが、要するにそれは、命ということ。

私は蠍座の月に生まれた。
蠍座と言うものは命を司る星座であるらしい。喪失と再生、冥王星の宿命。とかなんとか。

残念ながら命という言葉にはぴんと来ないが、死という言葉にはぴんと来る。
幼い頃、どうやら死の方に何かを置き忘れてきたらしいのだ。


7歳の時、姉が崩れた。
転校先の学校に馴染めず、担任から かなり理不尽な扱いを受けたようなのだ。自分に従わないものが悪いなどとふざけた主張をまき散らす奴は、どこの世界にもいる。
姉は長女ゆえに真面目だが、長女ゆえに器用でない。対応できずに取り残され、立ち向かえなくなったのだろう。

それによって母が荒れた。
彼女にとって子育てとは、自分が認められるための一つの手段だった。後にこの子と一緒に地獄を越えなければと姉の味方についたようだが、当初はどうして娘が思い通りに歩いてくれないのか、ヒステリックに叱責する態度であったようだ。

推測が多いのは、私には何一つ教えてもらえなかったから。
理想を大切にする人だから、汚いものは子どもに見せたくないらしい。高校生の頃など叔父が離婚したのさえ知らせてもらえなかった。
分からないだろうと思われたのかもしれないが、子どもは敏感だ。断片的に漏れ出てくる情報を繋ぎ合わせ、状況を仮定することくらいはできる。
それに何より、家の空気が澱んでいたから。
影の後ろから濃い灰色の何かがぞろりぞろりと這ってくるような、そんな気配が家じゅうに充満していた。そのどろりとした妖怪の名前が、今にして思えば『死の匂い』だったのだと思う。疲労と挫折と絶望と、閉塞感と否定感とが作り出すあの空気。

その内で暮らしていれば、そりゃあ病む。
ついでに当時の私の担任も、気分によって理不尽な叱責をするタイプの大人であった。クラスメイト達は皆、高圧的な存在の機嫌を損ねないように びくびくと生活していた。
そんな環境だったから家にも学校にも拠り所がなくて、私は私で落っこちそうだった。

だから死の匂いの中で、死を考え始めた。
死って何だろう。死ぬ時って痛い?死んだあとは?どうなる?何が変わる?

子どもはみんなそうやって死について考え、生きることを考える。死に興味を持つのは正常だし、死の魅力は強い。弱い子どもが引き寄せられるのは当然で、だから誰か大人が傍にいて、そちらに行かないように引っ張ってやらなけりゃいけない。
でもそんな大人は、当時の私の傍にはいなかった。
私はどんどん死に惹かれ、死に憧れた。

いっそ死んでしまったらどうなんだろう?
もしかして、そのほうが良かったりする?

だって、怖かったのだ。生きるってのは、この妖怪と暮らしていくことだったから。この先ずうっと こいつがそばにいて私を支配していくのかと思うと、とても耐えられそうになかった。生きていくのも怖くて、死に憧れる自分も怖くて、自分の中、表に出せない奥底には化け物がいるようだった。

だけど死ねば、妖怪も化け物もいなくなる。何にもなくなる。今までのこと、全部 帳消しにできる。

自分がぐしゃぐしゃになっていくようだった。大きすぎて掴めなくて、どこにも出せなかった。
内側で闘っていたって、表に出ないなら ないものとして扱われる。この大変な時に何も問題がないのに甘えるなと、私は『あっち側』に置き去りにされてしまった。悲しいことだけど、仕方のないことだ。
私は引っ張ってもらえるほどの人間じゃなかったってこと。黙ってたって引っ張ってもらえる人もいるけど、私はそうじゃない。一人で何とかするしかないのだと、それを思い知った。
だから一人で何とかした。だけど未熟で弱い私は やっぱりうまくできなくて、脱出する間に、いろんなものが『あっち側』に残ったまんまになった。

だから本当は、脱出できていないのだ。
私は今でも『あっち側』にいる。


はっきり言おう。私は、いつか死ねるから生きてこられた。いつか死ぬために生きてきた。
それを間違っていたと言われるのは、分かっているけど、ちょっと辛い。
間違ってるって言ってくれるのが愛情だというのも、分かってはいるけれど。
それほどの愛情を傾けてくれる人が幾人もいて、このままの道を歩くのは、それを裏切ることだとも知っているけれど。


そうよ、と翅の欠けた蝶は言った。
生きている以上は、死ぬとか死なないとかじゃなくて、生きて行かなきゃならないのよ。
それが命ってものなのよ。
そろそろ向き合いなさい。降り注がれた愛情に、ちゃんと応えなさい。


そうね、と私も思う。その通りだ、ようく分かった。
きっと無理だと諦めてきたけど、そうだね。やらなきゃいけないんだ。


飛べなくてもいい。それでも、飛べ。
そしていつか、舞い降りてみせよう。


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このストーリーに関するコメント

14/09/23 夏日 純希

深いお話ですね。
生きる理由とかいろいろ考えた時期はありましたが、私の場合はまず、
親よりは先に死ねないな、というのが確信として自分の中であったので、
死に引き寄せられることはなかったように思います。

蝶との対比と、途中死の恐怖を「妖怪」に例えたあたりに関心しました。

14/09/23 小李ちさと

夏日 純希さま

コメントありがとうございます。
親より先に死ねない、と確信できるということは
夏日さまは、とても素晴らしい育ち方をされたのだと思います。
そして とても素晴らしい生き方をされている、とも。
きっと素敵な方なのでしょうね。

ほんとうに、あいつらは、妖怪ですよ。
今 流行りの妖怪みたいに 可愛げがあったら良かったのですけど。
いちばん しっくりくる表現が これだったので、認めていただけたようで嬉しいです。
ありがとうございます。

14/10/06 光石七

拝読しました。
翅の欠けた蝶、前作にも登場してましたね。小李さんにとって道しるべののようなものではないかと想像しました。
死は怖いけれど何故か人を惹きつけるものでもある。私も死に憧れた時期があります。
支えてくれる人がいない中で一人で踏ん張り、今愛情を傾けてくれる人に気付いて向き合おうとしている主人公にエールを送ります。

14/10/06 小李ちさと

光石七さま

ありがとうございます。
はい、前回を受けての今回です。
道しるべ、あるいは守神、のような何かになって行きそうだと自分でも感じています。

生を大事にすべきだとは思っても、死を否定することは やっぱりしたくなくて。
自分が最後に行き着くところですから。
どちらも全部、大事にしていきたいと思います。
光石七さまの エールも、もちろん。
いつも ありがとうございます!

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