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ナポレオンさん

まだまだ未熟者ですがコメントもらえると嬉しいです。 忙しくてなかなか投稿できませんでしたが半年ぶりに復活してみました。 しかし、皆さんレベルが高いです^_^;

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穴の底には

14/04/09 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:7件 ナポレオン 閲覧数:1032

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 ある山奥の村に、とても古い煉瓦造りの縦穴があった。

 穴は、古代の劇場のようなすり鉢状に掘り下げられた土地の真ん中に開いており、鉄でできた1m四方の格子状の蓋がついていた。掘り下げられた周囲の地面や穴の内側を覆う、苔の張り付いた古風な赤煉瓦は、穴がはるか過去に作られたことを証明していた。

 ――この穴が何のために作られたのか、それを知る人間は一人もいない。

 穴の底は果てしなく深く、懐中電灯で照らしても何も見えない。小石を落としてみると、気が遠くなるほど深いところから、ポチャンという水の音が聞こえる。
 新しい村人はこの穴を単に排水溝のようなものだと思っていたが、そもそもこの穴が出来た時分には、村に下水管は整備されていなかったのである。

 穴は、この村にとって、決して喜ばしいものではなかった。すり鉢状の斜面は大雨のたびに大量の雨水を集め、穴の底に流し込む。果てしなく深い穴に大量の水が流れると、穴は轟々と悪魔の雄叫びのような音を鳴らす。その不気味な音は村中に響き渡り、いつしか村では雨を忌み嫌うようになった。
 それでも、穴を埋めてしまおうということを口に出す者はいなかった。穴への本能的な恐怖がそれをさせなかったのである。穴への畏れは人間だけにとどまらず、むしろ犬や猫のような動物ほど、絶対に穴に近づこうとはしなかった。

 ――そもそも、いったいこの穴はどこにつながっているのだろうか。

 今では誰も知る者はいないが、この穴のある場所は嘗てとある西洋人の屋敷の中庭であった。
 ――その西洋人は、土木技術者として日本政府に雇われた、いわゆるお雇い外国人で上下水道の整備など、トンネル掘削の権威として若くして名声を得ていた。いくつもの先進的な技術を開発した彼は、祖国ドイツでは称賛を込めてこう呼ばれていた。「悪魔と契約した男」と。

 彼は帝都のインフラ整備に貢献した後、日本人に技術を伝えるために大学講師として教鞭を振るった。彼の講義は将来の日本を背負って立つ若者たちに人気で、彼自身も持ち前のユーモアと明るい性格のために、いつも学生たちに囲まれていた。
 しかし、ある日突然彼は失踪するような形で大学を去った。ざわめく構内に彼が唯一残したものは、狂ったように黒板に書き殴られた文字だけだった。
 曰く、「契約の時は来た。地獄の門は開かれる」

 その後、彼は人知れずこの村に屋敷を建て、母国から少数の労働者を連れてくると、朝も夜もひたすら穴を掘り続けた。彼は、ほとんど屋敷から出ることがなかったが、偶然彼の顔を見てしまった村人は、その死人のような青白い顔を見て悲鳴を上げた。
 彼が穴を掘り始めてから、何十年もたったある日、屋敷から耳をつんざくような絶叫が響いた。驚いた村人が屋敷の中庭に駆けつけると、そこには泣き叫び発狂しながらのた打ち回る一人の労働者の姿と、完成したばかりの深い縦穴があった。屋敷にいたほかの人間は誰一人見つからなかったが、おそらく穴が完成するときに穴の底にいたのだろうと、その場にいた誰もが思った。

 それから、穴は雨が降るたびに、不吉な雄叫びを轟かし続けた。もはやだれもこの穴に近づくものはいない。もちろん、穴のかすかな変化に気付く者もいない。途方もない雨水を湛えた穴は水かさを増し、かつて途方もない彼方にあった水面は徐々にその邪悪に蠢く姿を穴の底に晒し始めていた……。

 やがて、この穴に耐えかねた村人たちは、少しずつ大きな町へと移って行った。そういうわけで、もとより過疎の進行していた村が廃村になるまでにさして時間はかからなかった。やがて、かつて村だったところは深い木々が生い茂り、穴の周りだけが森の中にぽっかりと空いた遺跡のようになった。
 人々に完全に忘れ去られた穴。それでも尚、大雨のたびに不吉な叫びは鳴り響いた。


 ――そして、幾度目かの激しい雨がふる。

 ついに、穴いっぱいに水が溜まると、穴の底からは悲鳴のような歓喜の声が上がった。おびただしいほどの青白い腕が鉄格子を掴み、蓋を持ち上げた。あふれ出るどす黒い水とともに異形の亡者たちが水死体のような体を引きずって、一つまた一つと、やがて森を埋め尽くすばかりに這い出てきた。


 ――人知れず、地獄の門は開かれたのである。


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このストーリーに関するコメント

14/04/10 浅月庵

ナポレオンさま
拝読いたしました。

最後の穴から這い出す亡者は
想像すると恐怖を覚えました。
ホラーテイストでとても好きです。

14/04/10 浅月庵

ナポレオンさま
拝読いたしました。

最後の穴から這い出す亡者は
想像すると恐怖を覚えました。
ホラーテイストでとても好きです。

14/04/11 クナリ

気味の悪さは好きなのですが、最後に亡者たちがわらわらと出てきてしまうと、ミステリアスな恐怖が、スプラッタ系のそれに転換してしまったように思えて、最後までついていききれませんでした。
ホラーシーンに到達するまでも長いので、もうちょっと前の段階で(いっそ冒頭ででも)具体的に怖いシーンを入れていっても良かったかと。
水がたまることで、底から亡者が上がってくるというのは最高に好きです。
すばらしい発想ですね!

色々言ってすみません、ホラー好きなので、これからも機会があったら書いてください!

14/04/12 ナポレオン

浅月庵様
コメントありがとうございます。
恐怖を覚えたというその言葉が非常に励みになります(^_^)/

長月五郎様
コメントありがとうございます。
このサイトで、そのような厳しいご指摘はかなり貴重なので非常に参考になります。
確かにオチが弱かったなと実感しました。ちょっと発想不足でした。

クナリ様
コメントありがとうございます。
実は最後鉄格子が開くところで切ろうかとも考えたのですが、インパクト重視にした結果こんなことに。
あとセリフもない小説で途中長々と説明しすぎた感もありました。
うーん。もう少し頑張ります。m(_ _)m
最近、2000字縛りがあるとホラー展開しか話が思いつかないのでホラー好きと言ってくださり励みになりました。

14/04/14 gokui

 読ませていただきました。
 小説としてのアイデアはいいと思います。あとは、場面場面でもう少しつながりがあればいいですね。

14/04/17 草愛やし美

ナポレオン様、拝読しました。

そうか、そういう穴が密かにこんなところに……、凄い発想ですね。どれくらいの深さなのかしら? きっと気の遠くなるような、──だって、まだどこにあるか誰も知らないところですもの。

不吉な叫びの住人がやって来た時、村人がいなくなってしまったのは、幸いだと思ったのですが、その後の世界を考えるとなんという恐ろしさでしょう。
面白かったです、ありがとうございました。

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