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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ミスターG 

14/02/03 コンテスト(テーマ):第二十五回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1008

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 親子づれが、檻の前で、足をとめた。
「わあ、大きなゴリラだ。へえ、名前を、ミスターGっていうんだ」
 こどもが、おどろきの声をあげた。
 ゴリラは、いかにもオスらしく、猛々しく胸を叩いた。
「ほら、あれがゴリラのドラミングというやつだ」
 父親が子供に説明した。
「なんであんなことするの?」
「相手を威嚇したり、自分を強くみせるんだよ」
「へえ、ゴリラって、単純なんだね」
「ゴリラはゴリラなりに、一生懸命なんだよ。そのけなげはほめてあげようじゃないか」
「そうだね。ああやってぼくたちを、楽しませてくれるんだからね」
 かれらが立ち去っていくのをみおくったゴリラは、ああ、やれやれと肩の力をぬいた。
「ああやってさえいれば、人間たちは満足するんだから、まったく単純な生き物だ」
 ミスターGはつぶやいた。
 じつは彼、檻の外から聞こえる人間たちの話を、すっかり理解することができた。
 その能力は、ほんとうはずっと前からあったのだが、ゴリラが人間の言葉を理解するとわかったら人間が気をわるくするとおもって、いままでなにもいわずにきた。
 ある日突然、頭の中に光がひらめいた。
 その瞬間からミスターGは、人間の言葉が理解できるようになった。理解できると同時に、自分が霊長類ヒト科に属して、アフリカの大地で生まれたことなども知った。
 檻の中は退屈だった。
 彼がいま一番もとめているものは、檻の向こうで人間たちが手にしている、スマートフォンだった。
 あれがあればさぞ、退屈しのぎになるだろうな。離れただれかと話ができるんだから。
 ミスターGはすでに会話の能力も身につけていたのだ。
「書くこともできるんだぜ」
 彼は、おちていた小枝を拾うと、水飲み場の水に先をひたして、すらすらと床に文字を書き出した。
「スマホとまではいかなくても、だれか新聞一枚、投げ入れてくれないかな………」
 願うような顔で彼が外をみたとき、またべつの親子づれがとおりかかった。
「わあ、ゴリラがいるぞ」 
 こどもが、もっていたクッキーを、こちらにむかって投げてきた。
 ミスターGは、そんなものちっともほしくはなかったが、かれらの手前、手にとって口にいれた。
「たべた、たべた!」
 こどもはおどりあがってよろこび、父親もいっしょになって笑った。
「ああして、檻の中で一日じゅう、なにもしないで遊んでいられるなんて、ほんとうにしあわせな生き物だ」
 父親が、うらやましそうにゴリラをながめた。
「あれ、あのゴリラ、こちらを指さしているよ。なんだか、空中に文字を書いているみたいだ。なになに、単純なのは、そっちのほうだ―――ぼくにはそんなふうに読めるな」
 父親はそれを聞くと、腹を抱えて笑いだした。
「ゴリラにそんなこと、できるわけがないじゃないか。おおかた指のさきで、ハエでも追っ払っているんじゃないか」
 檻から離れて歩きはじめた親子の、優越感にみちた笑い声はいつまでも、ミスターGの耳の中で鳴り響いていた。

                                了



ミスターGの外出               


 飼育係の京子が、ミスターGの檻からコート姿の大きな男といっしょにあらわれた。
―――檻の中では、いつもの寝床に食事を終えたゴリラのミスターGがうずくまっている。
 ミスターGがゴリラでありながら人間の言葉を話し、人間のようにものを考えることができるのを京子が知ったのは、一週間前のことだった。
「京子さん」
 だれかに自分の名をよばれて、檻の掃除中だった京子はふりかえった。檻内には、ゴリラしかいない。ふしぎそうに彼女があたりを見回していると、ふたたび、
「飼育係の京子さん。おれだよ、あんたたちがミスターGと呼んでいるゴリラだよ」
 寝床のワラの中から、ミスターGはのっそりと起き上った。
彼が穏やかな性格の持ち主で、いつもは友達のように接している京子だったので、こちらにちかづいてくる彼をみても、ひとつも怖いとは思わなかった。
 京子はそのとき、あることをおもいだしていた。
以前檻の中に、細いワラをくみあわせて、『京子さん』と書いてあるのをみつけたことがあった。
だれのいたずらだろう………? 結局それはなぞのままだった。
「あのワラで書いた文字は、あなたのしわざだったの?」
「そうだ。おれには文字を読むことも、書くこともできるんだ」
「いつから?」
「ずっと前からさ。このことはまだ、だれにもいわないでほしい」
「どうして?」
「人間はまだまだ、ゴリラがものを喋るということに、理解などしめさないだろう」
「わかったわ。二人の秘密にしておきましょう」
「ひとつお願いがある」
「お願いって?」
「一度でいいから、外にだしてもらいたいんだ」
「それは無理よ。それこそ大騒ぎになるわ」
「そりゃ、この姿のままだと無理だけど、コートをはおり、深く帽子をかぶったら、夜ならゴリラとはわからない」
「外にでて、どうするつもり?」
「ちょっと外の空気にふれたいだけさ。いつも檻にとじこめられていたら、どんな気持ちになるか、考えたことがあるかい?」
 それがただのゴリラなら耐えられもしょうが………。と彼がいいたがっていることは、京子にも十分理解できた。
 それで今回のミスターG外出作戦がはじまったのだった。
 まず京子が、自分の家からゴリラの等身大の人形―――いつもベッドで添い寝をしていた―――を車に乗せてもってきて、それを彼のかわりに檻の中においた。だれかが彼の寝床をのぞいても、夜は明かりもおとしていることだし、不審にはおもわないにちがいない。
 それからしばらくして、動物園の外の通りを、京子と人間に変装したゴリラの二人が歩いていた。
「どう、外の空気は?」
 と京子がたずねるとミスターGは、
「最高だ」
 そのとき、向こうから親子づれの一団がちかづいてきた。
 いきなり風がビュッとふき、彼の頭から帽子がとんだ。
それをみたこどもたちがいっせいに、
「わあ、ゴリラだ」
 と目をみはった。
 これにはミスターGもあわてたあまり、ついいつもの調子で胸をたたいてドラミングをはじめてしまった。
 コートのボタンがつぎつぎとんで、たちまち毛むくじゃらの体が出現した。
 こどもたちはますますはしゃいで、ゴリラだ、ゴリラだとさかんにはやしたてた。
「ゴリラのゆるキャラなのね、よくできていること」
 親たちのやりとりを耳にしたミスターGが、とっさにその場でいかにもゆるキャラがやりそうな面白おかしいゴリラ踊りをはじめると、親も子もいっしょになって手をたたいて喜んだ。
 ミスターGが、人間としてのじぶんをゴリラになってなんとか保っているのをみた京子は、ゴリラが人間社会に進出するのは、本当にまだまだ遠いさきの話だと、吐息まじりに首をふった。

                                      了



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このストーリーに関するコメント

14/02/05 朔良

W・アーム・スープレックスさん、こんばんは!
拝読いたしました。

ミスターGのキャラクターがいいですね!
動物園の動物たちが、もし人間の言葉を理解していて、言ってることを聞いたら、なんと思うかと考えると、一瞬ヒヤッとしてしまいます。
ゴリラに限らず、犬とか猫でも、人間の言葉を理解してるんじゃないかと思うような反応することがありますよね。

やっぱり、ゴリラが人間社会に進出はまだ先でしょうか? とりあえず、今がゆるキャラブームでよかった。ミスターGが色々理解したうえで動物園のマスコットキャラになったら、動物園めちゃくちゃ人気出て繁盛しそうです。

面白かったです、また続きがあったら読みたいです!

14/02/06 W・アーム・スープレックス

朔良さん、おはようございます。コメントありがとうございました。

以前ある動物園で、やっぱり大きなゴリラがひとり、なにやら瞑想にふけっている場面を目にし、その様子はどうみても、ただ餌を食べるためだけに生きているとは思えないフシがありました。いまそのゴリラはなくなって、玄関に銅像として立っていますが、おそらく本人はそんなものにはなりたくなかったのではないでしょうか。
人と手話をするゴリラがじっさいにいましたが、ゴリラの目に人間は、どのように映っているでしょうね。

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