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おもちさん

初めまして、もちだです。 ふと、小説を書きたくなり投稿しました。 酷評でも頂けると幸いです。 好きな小説家は乙一さんです。

性別 男性
将来の夢 桜島の見えるとこに移住
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サエ子

13/11/12 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:1件 おもち 閲覧数:838

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 サエ子の部屋はいつも甘い香りが充満していた。六畳半のその部屋にはベッドと机しか置かれてなく、今時の大学生にしては酷く殺風景に思えた。
 しかし私はそんなサエ子の部屋が好きだった。私が部屋を訪れる度、サエ子は自作のケーキを私に振る舞ってくれた。ここ一週間では肉の入ったケーキや、魚でも入れたかと思う程の生臭いケーキが出されたが、サエ子は研究熱心なんだなあと、むしろ感心した。食べる事が大好きな私にとって、こんなうれしいことはない。私はいつからかサエ子に会うためでなく、ケーキを食べるためにその部屋を訪れていた。

 ある日、大学の帰宅途中に携帯に一通のメールが入っている事に気づいた。サエ子からだった。
『新作ができたよー!今から食べに来ない?」その一文に私の顔が自然とほころぶ。
やった、またケーキが食べられる!私は嬉々とし、サエ子に今から行く旨を伝え、足早に歩を進めた。

「早かったねー」
玄関の扉が開くなり、サエ子が私に話しかけてきた。
「早くサエ子に会いたくてね」私が間髪入れずにそう返すと、
「わあ、うれしいな!」とサエ子は満面の笑みを浮かべた。つくづく私はお世辞上手だなあ、とケーキに会いに来た事を胸の内に秘める事にした。

「今日の部屋、なんか生臭くない?」
いつもは甘い香りがする部屋に疑問を感じた私がそう尋ねると、サエ子の表情が一瞬曇ったのを私は見逃さなかった。
「昨日お母さんが来てね、ご飯作ってくれたまでは良かったんだけどゴミをそのまま残していってね、それでこの有様だよ」頬を掻きながらそう話すサエ子の顔は、さっきの曇った表情とは裏腹に少し照れくさそうだった。
「サエ子のお母さん、一週間前にも来なかったっけ?」続けて私が尋ねると、サエ子の顔がまたもや曇った。
「……そうなの、お母さん過保護でほんと嫌になっちゃう。せっかく一人暮らししたんだからもう少し私の好きにさせてほしいよ」
眉間にシワをよせて話すサエ子の顔に、この話題はNGだな。と私の良心が訴えかけた。
「……まあ!それだけ心配してくれてるって事だよ!そんなことよりケーキケーキ!」
少し無理矢理な話題変更だったが、それはサエ子を笑顔にさせた。
「うん!今度のはすごいよ!なんといっても素材が違うね!文明開化だよ、文明開化!」
意味不明なサエ子のその発言に私は胸を撫で下ろした。

 目の前に出されたケーキは普通のショートケーキのように見えた。スポンジを横に切ったその断面に、おそらくイチゴジャムを塗って蓋をしたであろうボーダー状の赤く光った線がある以外は。
「この赤いのって──」
「いいから食べてみて?」
私が言い終わるのを待たずして彼女は食を促してきた。早く感想を聞かせて欲しいのだろう、私はそれに従った。
「…………まい」
「えっ?」
「うまいよこれ!生クリームの甘すぎる味をこの赤いペーストが抑えていて、味を引き締めてるよ!」
私はここ一週間の肉の入ったケーキや生臭いケーキとの違いに驚きを隠せなかった。
「本当に?美味しいの?」サエ子も驚いているのか、目を丸くして私に問いかけてきた。
うん。と私がコクリと頷くと、
「まだまだあるよ!おかわりしてね!」と満面の笑みを私に返してきた。

 ホールケーキの半分はあったであろうそれは、私のお腹を埋め尽くした。
すでに日は暮れており、部屋を黒く照らしていた。
「もうそろそろ帰るね、ケーキごちそうさま」ケーキを堪能し満足した私は、足早に玄関に向かった。
「……うん。また来てね。美味しいケーキ作って待ってるよ」眉を困らせ、悲しそうな顔をしたサエ子が言い放った。
うん。と私は頷き、玄関の扉を閉めようとした時、ふと赤いペーストの正体が気になった。
「そう言えばあの赤いペーストって──」
「明日になればわかるよ」私の言葉を遮るようにサエ子が言い放ち、玄関の扉はガチャリと閉められた。

 次の日の朝、大学に登校する準備をしていた私は、ポストに入れられた新聞を何気なく手に取り、スラスラっと目を通した。そこには見慣れた名前が書かれていた。
《昨日午後7時頃、A市に住む二十歳の大学生、伊東サエ子容疑者が母親を殺人した事件で、A署は犯行動機について調べを進めているとのこと。
昨日午後6時半頃「母親を殺した」と自首してきた伊東サエ子容疑者の供述により容疑者宅を捜査したところ、冷蔵庫に散りばめられたら肉片を発見し、緊急逮捕したとのこと。A署の調査の結果、肉片は母親のDNAと一致し、断定に踏み込んだという。母親は一週間前に死亡していた模様。
調べに対し伊東サエ子容疑者は「肉や血はケーキに混ぜて友達に食べさせていた。証拠を隠滅しようとした。だけどもう逃げられないと思った」と供述しているという》

 一通り読み終えた私は、ふぅ。とため息を漏らし、そこで気絶した。


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このストーリーに関するコメント

14/03/10 リードマン

拝読しました!
傑作ですね!

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