1. トップページ
  2. 親父のラーメン

aloneさん

好き勝手に小説を書き散らしています。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

親父のラーメン

13/05/29 コンテスト(テーマ):第三十二回 時空モノガタリ文学賞【 ラーメン 】 コメント:2件 alone 閲覧数:1333

この作品を評価する

俺はラーメンが大っ嫌いだ。味の好みの問題ではなく、ラーメンというもの自体が嫌いなんだ。
その原因は分かり切っている。それは、俺の家がラーメン屋だからだ。
周りの友達の親はサラリーマンだとか医者だとかまともな職業に就いているのに、うちはラーメン屋。恥ずかしくって言えたもんじゃない。
しかも、いくら両親二人でラーメン屋を切り盛りしたって、うちは万年貧乏だった。小さい頃からゲームなんて買ってもらったことはなかったし、服だって誰かのお下がりだった。
なにがラーメンだ。あんなもん、大っ嫌いだ。
俺は将来、絶対ラーメン屋になんかなるつもりはない。親がなんと言おうが大学に入って、まともな仕事に就くんだ。そう心に誓って、俺は勉強に日夜うち込んでいた。
そんなある日、お袋が倒れた。
原因は過労。だけど数日安静にすれば退院できるとのことだった。
お袋が入院してすぐ、俺はお袋の見舞いに行こうと親父を誘った。だけど親父の答えは……。
「俺はラーメン作らなきゃいけねぇ。お前だけで行って来い」
「ラーメン屋なんか閉めてけば良いだろッ! お袋とラーメン、どっちが大切なんだよッ!」
「これから儲け時なんだ。お前だけで行って来い」
親父はそう言って厨房に向かった。
俺は信じられなかった。親父はお袋とラーメンを量りにかけて、ラーメンを取るってのかよ。
「っざけんなよ」
俺はそう吐き捨てて、家を後にした。
病院に着き、お袋の病室に向かうと、少しながら頬のこけたお袋の姿があった。お袋は俺を見るなり笑みを浮かべ、複数の皺を頬に刻んだ。
「見舞いなんていいのに。そんな心配するほどじゃないってお医者様も言ってただろう? それにお前は勉強で忙しいんだから」
「別に大丈夫だよ。それに、お袋は自分の身体の心配しろっての」
「ふふ、そうだねぇ。人の身体を心配して、自分が倒れてたんじゃ世話ないものねぇ」
そう言ってお袋は視線を窓の外に向けた。どこか遠くを見つめ、しばらく沈黙が続いた。
「あの人はラーメンかい?」お袋は窓の外を見つめながら、ぽつりと言った。
「ああ、親父はラーメン作るってさ。……けど、お袋が倒れたってのにラーメン取るなんて、最低な奴だよ」
「お前にはそう思えるかもしれないね。けれど、あの人も必死で頑張ってるんだよ」
「頑張ってる? ただラーメン作ってるだけじゃないか」
「……あの人がなんで必死にラーメン作ってるか、お前に分かるかい?」
お袋は窓の外に向けていた視線を俺に向けた。
「分かるかよ、そんなもん」
「あの人はね、お前に自分と同じ思いをさせたくないんだよ」
「えっ……?」
「あの人の家は貧乏でね、まともな教育も受けられず、ラーメン屋ぐらいが関の山だった。だから、お前にはちゃんと大学に行かせてやりたくて、それで必死にラーメン作りを頑張っているの。あの人にはラーメンしかないからね」
「そんな話……一度も……」
「あの人は恥ずかしがり屋さんだから」
そう言ってお袋は小さな皺を寄せて笑った。

俺は病室を後にして、家に帰った。店内は昼時を過ぎ、案の定、客の姿はなかった。店にはスポーツ新聞を読む親父一人だけだ。
帰ってきた俺を見て、親父はスポーツ新聞から顔を上げて訊いてきた。
「母さんは元気だったか?」
「元気だったよ」
「そうか。お前は昼飯食べたか?」
「まだ」
「じゃあ何か食うか?」
「うん」
俺はカウンターに座り、親父は厨房に向かった。
互いに黙ったまま数分が過ぎ、目の前にラーメンが置かれた。どこにでもあるような何の変哲もない塩ラーメンだ。
「うちがラーメン屋だからって昼飯もラーメンかよ。芸がねえな」俺は割り箸を割りながら言った。
「うちがラーメン屋だから、昼飯もラーメンなんだよ」親父が言った。
俺は箸をスープにつけた。立ち昇る湯気が、今日はなぜだか目に染みる。暑くもないのに、頬を汗が伝っていくのが分かった。
俺は麺を口に運び、一気に啜った。
あれ……今日のラーメンはいつもと違う。今日のはなんだか、しょっぱい。
それになぜだろう。湯気のせいか目の前が徐々にかすんでくる。
俺はもう一度、麺を啜って食べた。
やっぱりしょっぱい。こんなラーメンなら、大っ嫌いだ。こんなしょっぱいラーメン……大っ嫌いだ……。
俺は麺と具を食べ切り、スープも飲み干してから、親父に言った。
「親父……おいしかったよ……」
「おう」
厨房に親父の声が小さく響いた。
俺は厨房に立つ親父の背中を見た。親父の背中は少しかすんでいたけど、いつもと違って立派なものに見えた。
俺は親父の作ってくれたラーメンの味を噛みしめ、口を開く。
「……ありがとう」
俺はわずかに上擦った声でそう言った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/05/29 光石七

拝読しました。
ラーメン屋ではありませんが、自分の親の姿と重なりました。
やはり嫌いだと言いつつしっかり完食し、感謝の言葉を口にした主人公。
これからはお父さんを誇りに思うことでしょう。

13/05/29 alone

>光石七さんへ
感想ありがとうございます。
自分もこの作品を書いているときは、自分の親を意識していました。
子供のために教育費だとを惜しまない親。そのおかげで自分は大学に行けてるわけなんですけど、
自分が親の立場になったときに子供にそんな風にお金を使ってあげられる人間になれてるとは現時点では思えません(苦笑い)
親の偉大さを感じつつ自分の親への感謝も込めて、最後の一言は添えさせていただきました。

ログイン