1. トップページ
  2. 結果と過程

汐月夜空さん

切ない話が好きな空想好きです。 なんでもない日常がなんでもある日常に変わる物語を読んだり書いたりするのが特に好きです。 ブログの方でも小説やエッセイ、ネタなどを書いておりますので、よければどうぞ。 twitterの方は私生活も含めて好き放題呟いてますので、汐月夜空のことが気になる方フォローお願いします。 ブログ:http://ameblo.jp/shiotsuki-yozora/ twitter:https://twitter.com/YozoraShiotsuki

性別 男性
将来の夢 物書き
座右の銘 日々前進

投稿済みの作品

0

結果と過程

13/05/05 コンテスト(テーマ):第二十九回 時空モノガタリ文学賞【 手紙 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1183

この作品を評価する

 私と彼の出会いは運命で。
 私と彼が居眠りトラックの事故に巻き込まれたのも運命で。
 彼のサッカー選手としての生命が断たれたことも運命で。

 ――ねえ、運命。そんなに欲張らないでさ。
 1つくらい変わっちゃくれないかい?
 代わりに私を、どうしてくれたって良いからさ。



 * *


 カラ、カラ、カラ。乳母車の車輪が回る。

「これを、送るんですか?」
 目の前の私と同年代の男がそう尋ねてきた。
 私は乳母車の上で「ダヴ」と唸る幼い息子の様子を伺いながら、「そうよ」と頷いた。
 男は苦笑を浮かべ、私が書きあげた手紙にもう一度目を走らせる。
 この手紙はタイムレター、時を渡る魔法の手紙。
 私はそれ以上のことは知らないし、知ろうとも思わない。
 ただ、これが送り先に確実に届くことだけは知っている。
 なぜなら、今ここに居る私も過去にタイムレターを受け取ったことがあるからだ。
 送り主は未来の、つまり現在の私だ。送った理由は夫の選手生命の復活のため。
 1年前に私と夫を襲った居眠りトラックによる事故を回避するために、私は過去の自分に向かってタイムレターを書いた。
 過去の私はそれを読み、それを信じて、事故を回避するように動いた。
 動いた、はずだった。
 だけど、どれだけ手紙の内容に沿って動いても、私と夫は1年前のあの日に事故現場に居て、必ず居眠りトラックの起こす事故に襲われることになった。
 その時の私が読んだ手紙の中に、タイムレターでは運命を変えることは出来ないかもしれない、という記述があった。
 けれど、手紙に刻まれた必死な字は、確かに私の書いた字で、その時の私は、苦しみ嘆く未来の私を救おうと必死になっていたんだ。
 未来は変えられる。少なくても、私がそう信じているうちは。
「過去の自分自身にタイムレターを送ることは前例がありますが……」
 男が言った。そうだ、男が引っかかっているのはそこではない。
 それは単純に。
「これだけの文量を過去に送ることは初めてですね」
 文字が多すぎるだけだ。
 全部で10枚になる便箋の束、その表と裏にびっしりと刻まれた文字たち。
 それらのすべては禁則事項だった。これまで何度も繰り返されてきたであろう、事故から回避するための行動の中で得られてきた禁則事項。
 そのすべては無駄であったが、けれど、失敗は成功の元。それを正確に伝えない限り、この実験の成功はありえない。
「これだけの内容を伝えてでも彼の怪我を救いたいんですか。お子様までいらっしゃるのに。もし、万が一にでも怪我が治ったとして、その状態であなたがもう一度選ばれるかは分かりませんよ」
 私に忠告する男。私はそれに笑って応えた。
「それでもいいの。何も出来ないで、夫の苦しい顔を見るよりは100倍ましだわ。それに、私と夫は運命の相手なの。絶対大丈夫よ」
「運命の相手、ですか」
「そうよ。初めて目が合った時の電流が走るような感覚は忘れられないわ。私も夫も5秒間は動けなかったもの。そんな夫だから、その内容なのよ。私は運命の力を信じるわ」
 男は悩んでいるようだった。
 手紙の内容は我ながらグレーゾーンだと思う。過去に与える影響もきっと大きい。
 だけど、これが最後の綱だ。
「行って。お願い」
「かしこまりました」
 了承した男の姿が徐々にぼやけていき、やがて世界は暗転した。


 * *


「ありがとう」
 私は目の前で驚いている同世代の男にお礼を言った。
 運命は変わった。これまで何をしても変わることのなかった、夫の選手生命が断たれるという運命は。
 私と夫の初めての出会いという運命で改ざんされることとなった。
 目と目があった瞬間の、電流が流れたような五秒間。
 その運命の五秒間のおかげで私は、夫にかばわれることがなくなった。
 だから、当然夫が負うはずだったけがはすべて私が負うことになり。
 今の私は、車椅子の上に居る。
 ぴくりとも動かない足。酷く痛む幻肢痛。
 ああそうか、これが夫を傷つけていたものの正体か。
 だけどこんなもの、夫の苦しむ姿を何もできずに近くで見続けることと比べれば、どれだけましなものか。
「世話になったわね。本当に、ありがとう」
 私は初めて触るはずの車椅子を、手慣れたように扱って部屋から出ようとする。
 慌てたように男が部屋のドアを開き、私を見送ってくれた。
 ぱたり、と後ろでドアが閉まる音。
 そして、目の前には両の足で大地を踏みしめ、私を迎えてくれる夫の姿が。

 ――キイ、キイ、キイ。車椅子の車輪が軋む。

 私は二度と帰らない失われた存在を思いながら、後ろで車椅子を押してくれている夫に笑いかけた。
 爽やかに笑い返してくれる夫を見て、私は。

 これで良いんだ、と自分に言い聞かせるのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス