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本宮晃樹さん

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大富豪誕生秘話

18/05/20 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:88

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 誰しも子どものころ、一度くらいはふんわりと宙に浮かんでみたいとこいねがったことがあるはずだ。自由に飛翔する鳥たちを見てぼくも/あたしもあんなふうにお空を駆け回れたら……なんと純真だったことか!
 かつてのピュアなガキどもは長じるにつれ、薄汚い社会の瘴気にさらされる。連中は見るも無残に現実とやらを思い知らされ、ヒースの根っこみたいにひねくれた人間へ変貌を遂げてしまう。
 だがなかには蔓延する瘴気をものともせず、いつまでも夢を持ち続けるやつがいる。そいつらはお空を悠然と散歩したいなどといい歳こいてのたまうもんだから、周りから距離を置かれるのはまず免れない。いやな世の中だ。
 白状すればわたしもそんな距離を置かれる人間の一人だ。いや、一人だった。

     *     *     *

「光栄だね、そんなにぼくのショーが本物っぽく見えたとは」
 イリュージョンショーのあと、強引に楽屋へ突撃したわたしの期待はこの一言で木端みじんに打ち砕かれた。が、ともかく食い下がってみる。「知ってますよ、実は本当に空中浮遊できるんでしょう」
「それだったら商売がもっと楽になるんだがね」
「ごまかしたってだめですよ。明らかにあんたは浮いてた、掛け値なしにね」
 マジシャンの顔がさっと青ざめた。「落ち着いて聞いてくれ。ぼくは超能力者じゃない。種明かしはできないが、あれは正真正銘のマジックなんだよ」
「信じないぞ」
 やつは後ずさった。「な、なにが望みなんだ」
 負けじと間合いを詰め、壁際に追いやる。「空中浮遊のやりかたを教えてください」
「ぼくは知らない!」よほど鬼気迫った顔をしていたらしい。しまいには泣き出した。「頼む、よそを当たってくれ」

「ようこそ、〈超能力開発機構〉へ」
 案内係は器量よしの若い女性、おまけに気さくだったのでわたしの警戒心は数秒で雲散霧消した。「あのう、実は空を散歩してみたいと思ってまして」
「わかりますよ」〈ママはなんでも知ってるわ〉式の鷹揚なうなずきを何度もやり、「あの雄大な大空へ飛び出せればどれだけ爽快でしょう」
「すると、ここではそれをやってのけた人が本当にいるんですね?」
「そりゃもうみなさんバンバン飛んでますよ」
「わたしにもできるでしょうか」ぐるりとその場で回ってみせた。「この通りなんの変哲もない一般人なんです。生まれてこのかた三十年、超能力とは無縁の生活でした」
 女性の瞳に火が灯った。「超能力開発に遅すぎるなんてことはありません」悩殺ウインク。「やる気さえあればどなたでも夢を叶えられるんです」
「やります。いや、やらせてください!」
「ありがとうございます。それではこちらの書類に必要事項を記入のうえ、サインをお願いします」
 よく見もしなかったのだが、その紙切れには入会金三十万円と月会費三万円、さらに超能力開発に必要な訓練器具の購入代金はすべて実費である旨が記載されていた。
 目を覚ますのに三か月もかかった。

 チベット語の習得と滞在用ビザの発給を受けるのは当然、並大抵の難易度じゃなかった。だがわたしはそれらをやってのけた。マジシャンも超能力もだめなら、もうスーパーナチュラルしかないではないか?
 幸いチベットにはそうした伝聞が売るほどある。火のないところにはなんとやら。ほら話のなかにひとつくらい真実が混じっていても罰は当たるまい。
 途方もない冒険の数々を乗り越え、ついにわたしは秘密の仏教寺院に辿りついた。そこでは当主が二十七代にわたって生まれ変わっており、サイ・バーバという男の手のひらからはだしぬけに飴玉が飛び出し、そしてもちろん僧たちは日常的に空中浮遊しているらしいのだ。
「修業はつらく厳しい。覚悟はできてるのかね、旅の人」と二十七代め当主。
 自信たっぷりにうなずいてやった。
「一点の迷いもない瞳だ」当主は破顔した。「よろしい。僧籍としてきみを歓迎する」
 ばかげた修行に三年辛抱したのち、なんの意味もないことにようやく気づいた。連中は確かにどんな奇跡も思いのままに起こせる。ただし瞑想という自己催眠状態時限定でだが。
 なんのことはない、チベット密教の高僧とはずば抜けて感受性の高い、思春期の女の子みたいなやつらだったのだ。

     *     *     *

「ペイロードが人間だけの飛行なんて初めてだよ」パイロットは興味津々なようすだ。「あんた、いったい何者なんだね」
「一介の夢見がちな一般人だよ」
「宇宙いきのロケットをまるまるチャーターしちまうのをそう呼ぶなら、俺が知らないあいだに定義が変わっちまったんだろうな」
「金を稼ぐために手段を選ばなかったことは認めるよ」
 パイロットは肩をすくめた。「宇宙でなにをやりたいか聞いていいかね」
「もちろん、ふんわり浮かぶのさ」


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