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向本果乃子さん

目をとめて読んで下さった方に感謝します。コメントや評価ポイントは励みになります。本当に有り難いです。読者としても、自分には書けないジャンル、アイデア、文体がたくさんあって、楽しみながらも勉強させて頂いてます。運営、選考に携わる皆さんにはこのような場を設けて頂き感謝しています。講評はいつも励みになります。誰か一人にでも「読んでよかった」と思ってもらえる小説が書けたら嬉しいです。最近はエブリスタでも書いています。よろしくお願いします。

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愛を教えて

18/01/11 コンテスト(テーマ):第151回 時空モノガタリ文学賞 【 あばずれ 】 コメント:2件 向本果乃子 閲覧数:272

時空モノガタリからの選評

これは選考者によって好みの分かれた作品ではありますが、「愛」について改めて考えさせられる中身の濃い作品だと思います。とても繊細に人の内面をとらえていますね。間的な価値観からすれば、美優は「あばずれ」「淫乱」として片付けられてしまうタイプの女性でしょうが、彼女の言い分を聞いてみれば、純粋な愛を求めようとする「聖なる愚者」という面を備えていることも真実なのでしょう。本当の願いである「温かい家庭」を求める心の叫びが一見愚鈍な美しさの陰からヒシヒシと伝わってきました。また、“常識的”意見を代弁する祐とのやり取りが特に興味深かったです。「愛」を求めつつも得られず、どこか心に空虚さを抱えているという意味では、彼らは二人とも同じ孤独な人間なのであり、この世界のかなり多くがそんな人間で構成されているのだろうと思います。しかしあまりに純粋にこの現実世界を生きようとした時、人は世間的な価値観とのバランスをとることを迫られ痛い目にあうことを、彼の方は理解しているのですよね。でも同時に彼女のような生き方にも惹かれてしまう心もあり、彼が聖と俗とのバランスの中でどのように彼女と共に生きていくのかが気になります。それは非常に難しいことかもしれませんが応援したい気持ちになりました。

時空モノガタリK

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五日前に別れたはずの男に睨み付けられ美優は戸惑う。
「もう男がいるって本当かよ」
聞かれて正直に頷く。別れた次の日に今の彼と付き合い始めた。
「もう、したのかよ」
男の言葉に美優は首を傾げる。
「寝たのかって聞いてんだよ」
美優はびっくりしながら頷く。つきあい始めたその日のうちに抱かれた。
「やっぱり噂どおりだったんだな」
睨み付けている目が少し濡れているように見えた。
「試してみて正解だったよ」
吐き捨てるように言うと立ち去った。美優はきょとんとしたまま取り残される。別れ話は本気じゃなかったの?何を試したの?その時スマホが震え今の彼から「会える?」の言葉が届き、美優はぱあっと笑顔になる。あったかい気持ちが沸き上がってくる。好き、好き、大好きと思うとさらに幸せな気持ちが溢れてくる。すぐに返信して、バイト先に休む連絡を入れる。急な欠勤に店長はあからさまに不機嫌な声だが美優は気にしない。店長とはさっきの元彼の前につきあっていた。別れてからはいつも不機嫌だ。

ここは郊外の小さな町で進学や就職で出て行く人も少ない。地元で結婚し、町の商店や自営や農家で働く人がほとんどだ。道を歩けば同級生やその家族に会う。そんな町で美優はずっと暮らしてきた。母親は未婚のまま美優を産んですぐ施設に預けると町を出たらしい。美優は高校卒業まで施設で暮らし、今はバイトをして何とか一人暮らしている。美優という名は施設長がつけてくれた。美しく優しい子でありたいと美優は心から思っている。そして母のように不運な人生を歩まなくてすむように、愛し愛される人と結ばれて温かい家庭を築きたい。それが美優の一番の願いだ。まだ知らないものすごい幸せが家庭にはあると信じている。大好きな人に愛されて暮らす。なんて素晴らしい響き。美優の肌の色は白く顔立ちは整っている。それでいてぽやっとして隙だらけなので男が放っておかない。しかし、そのことが美優の一番の願いを叶える障害となっているという皮肉に美優は気づいていない。
 
大喜びで今の彼に会い抱かれる。美優はお腹が空いていても、彼は食事より抱き合いたいと言う。そう言われて、美優は嬉しくて仕方ない。求められている、必要とされている、愛されている。
「それは愛じゃないですよ」
ある日、眼鏡を拭きながら祐が言った。
「都合のいいセックスの相手にされているだけです」
眼鏡をかけ直して真面目な顔で続ける。祐は同じ施設で育った同じ年の男の子だ。祐も施設は出ているが、町で偶然会うとベンチや河原で時々話す。
「誰とでも簡単に寝るから、あばずれとか淫乱とか噂されて軽く扱われるんです」
美優には祐の言ってることがわからない。誰とでもなんかじゃない。私を必要として求めてくれる人とだけなのに。
「愛していたらもっと大切にするはずでしょう?」
祐は手の平をこすり合わせながら、その手に視線を向けたまま話す。
大切にするってどういうこと?美優も祐の手を眺める。
「じゃあ、愛を教えて?」
美優の言葉に祐は顔を上げ目をしばたいた。
「・・・愛は教えるようなものでは」
「それなら私を愛してくれる?」 
美優の美しい顔でじっと見つめられて眼鏡の奥の目が泳いだ。
「僕はまだ結婚できるような立場でもないですし」
「結婚できないと愛は存在しないの?」
「・・・そういう訳では」
「私を抱きたいと思う?」
「・・・そ、それは」
「それは愛じゃないの?」
「愛の、場合もあるかもしれないです」
「私は誰と抱き合う時も愛してるつもりだったよ。それが愛じゃないって言われたらわかんなくなっちゃうけど、でもね、みんな大好きだった」
美優はにっこり笑った。
「抱かれている時、キスしている時、会いたいって言われる時、いつも幸せだった」
心から大好きが溢れたよ。でもそれは愛じゃないのかな。
美優の言葉に祐は俯く。
彼はこれまで誰ともつきあったことも、抱き合ったこともないのだった。
祐もまた両親を知らずに育った。施設の人たちは親切にしてくれたと頭で理解しているし、感謝している。だけど、愛ってなんだ?僕はいつか誰かに心から愛されることがあるんだろうか?誰かを愛せるんだろうか?誰かの肌に触れることが?

いらいらする。いらいらする。僕には何かが欠けている。美しくて愚かと言えるほど優しいこの女と同じくらい欠けている。決定的に足りてない。絶望して、何百回目になるかわからない死への衝動が沸き上がる。

その時、美優がくすくす笑って楽しそうに言った。
「愛ってすごく甘くてふわふわでおいしそうだよね?いつか二人で食べたいね」
祐の体から力が抜けて、ふはっと息が漏れた。死への衝動もどこかへ消えた。

この、聖なる愚者を、僕は守ってやれるだろうか。

だけど、僕にしか守れない気もするのだった。

美優はまだくすくす笑っている。


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このストーリーに関するコメント

18/01/13 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
『・・・愛は教えるようなものでは』と頭でわかっていても『それは愛じゃないですよ』と言わずにはいれない祐の心情は辛いものがありますね。愛を定義せよ、と問われれば、おおよそ誰もがふと考え込んでしまう。仮に巷で流布される、無私で相手に尽くすことであるとすれば、御作の美優もまた愛の体現者と言えるのかもしれない。ただ、社会生活を営む上での倫理観がそうではないと警鐘を鳴らしてもいる。何にせよ、彼女が『すごく甘くてふわふわでおいしそう』な何かをいつか手に入れられるのを願うばかりです。

18/02/14 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
その行動だけを見れば美優は「あばずれ」「尻軽女」などと烙印を押されてしまうでしょうが、愛を知らず、でもただ愛を純粋に求めているその内面を知ると、やるせない気持ちになります。
祐の葛藤、苛立ちは、愛とは何かはっきり答えられない私たちの姿だと感じました。
同時に彼自身の抱える孤独や空虚も伝わってきて、美優と二人本当の愛をみつけてほしいと思いました。
愛とは何か、考えさせられる深いお話でした。

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