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ちりょう なひろさん

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ヒモの作り方

17/10/12 コンテスト(テーマ):第145回 時空モノガタリ文学賞 【 財布 】 コメント:0件 ちりょう なひろ 閲覧数:78

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 昨夜未明に仲良くなった女の子と一夜を共にして、彼女の部屋のベットの上で目を覚ますと彼女はいなくなっていた。テーブルの上には『きのうは楽しかったね。ずっと仲良しでいられるといいね。気持ちよさそうに寝てたから、起こさないで仕事に行ってくるね。あっ、これでお昼食べて!!PS鍵はポストに入れといてください』と書かれたメモ用紙、この一室の鍵、そして千円札が重なって三枚置いてあった。昼食代として置いていった三千円という額について私は考察せざるを得なくなる。
 かつて私の人生においてお昼に三千円という値の食事をしたことがあっただろうか。それも一人だけの食事でだ。いや、ない。親しい仲の人等と、今日はちょっと贅沢なランチにしようかと洒落込んで、ちょっとお高めの飲食店で食事をした際に一人それくらいの値となった事はあったが、それにしても昨日今日会った仲でいくら気が合い剰え体を交えたからといって私一人なんかの為に三千円を置いていくのはどうなのだろう。また、三千円という額が妙、なのだ。ここに置かれているのが五千円札や一万円札であったならば、あぁ細かい持ち合わせが無かったのだろうと納得し後日会った時にでも礼と共に余剰分を返せば良い。しかしここには千円札が何度数えても三枚ある。わざわざ彼女は千円札を三枚置いていったのだ。それが意味することは、これは彼女の私に対しての故意であるという事に他ならないのではないだろうか。仮に私が千円使い余剰額を後日彼女に返すとしよう。それは彼女の好意に対し失礼に価するのではないだろうか。
 その答えを導き出すには彼女の懐事情を考えなければならない。
仮にわざわざお昼代として三千円を置いたのが、金銭的余裕があるからだとしよう。青山にある小洒落たカフェテリアでガレットだのベーグルだのキッシュだのを食らう事になんの疑問を抱かない、抵抗がない女だとしたら、私はこの三千円でコンビニのスナックチキン一つ買い貪り余剰額をまるまる懐に入れることになんの罪悪感も生まれはしない。しかし逆に、金銭的余裕が無いにも関わらず三千円を置いていったとして、私がチキン一つ買い貪り懐を温めた場合、たとえそれが同じ行いでも罪の意識が生まれ、私の自尊心にひどい傷を負う。悔いて悔やみて悔いたおす。はっきりいってそれは面倒だ。なにも考えず使っちまうなんて出来やしないのは彼女が後者である可能性が高いからで、この一室はどこにでもある賃貸マンションの1DKだし、東京といっても郊外で駅もそれほど近いわけではない。マンション自体は外装、内装、セキュリティ面もしっかりしていて、少なくともここ十年以内に建てられたものだろう。一人暮らしの女性ならこれぐらいのマンションに住むのが妥当だろう。仕事はなにをしているか分からないが、昨夜酒に酔う彼女がドライブに行きたいが車を持っていないとぼやいていたから、多分駅まで徒歩かバス、またはチャリ通だ。そんな女の三千円を使えるわけが無い。 二日酔いの為か私はひどく頭が痛み、喉も渇いていた。なので台所に行きコップを一つ拝借し勝手に開けるのも忍びないが、昨日酔った私に彼女が飲ませてくれた麦茶が冷蔵庫にあることを覚えていたので、二杯分ほど麦茶を飲んだ。水出しパックのよく冷やされた麦茶はするすると喉を駆けていく。そこで私はハッとする。彼女だって昨日、私同様にガバガバと酒をかっ喰らっていた。それに睡眠時間も私より遙かに短い筈だろう。彼女が二日酔いでないという保証なぞはどこにもない。
 ようやく三千円が置かれた真実に私は辿り着く。
 きっと彼女は朝寝坊し、鈍痛のする頭を抱えながら慌てて支度をし、すやすやと眠る私に気遣い手紙を残す。そして財布を手に取り酒の残る鈍い頭で考えた、お昼代どれくらい置いていけばいいのか、と。五百円では少なすぎるし千円だと足りない時がある。二千円くらいが妥当だと考えお札を引っ掴んだ時、一枚の札と札がぴったりと重なっていることに気がつかず彼女は家をあとにした。彼女は二千円を置いていったと勘違いし、机の上には三千円が残された。
 では、どうしてすやすや眠る私の為に鈍くなった頭を使ってそこまでしてくれたかといえば、私が今、絶賛無職中である事を昨日彼女に話してしまったからだった。しかし無職だからといって金銭的余裕が無いわけではないのだが、彼女はそれも承知で置いていってくれた。
 それは優しさに他ならない。
 本来なら三千円を受け取り五千円札を机に置いて、メモ用紙に感謝の意と、これでおいしいものでも食べてください。と書いて去るのがスマートなのだろうが、私は無職なのだ。格好付けたって仕方がない。時間にだけは余裕がある私に出来ることといえば、置いていった三千円を握りスーパーマーケットに行きありたけの食材を買って料理をし、彼女の帰宅を待つことくらいだろう。


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