1. トップページ
  2. 緊急逮捕

与井杏汰さん

突然思い立って短編小説を書いてみたくなりました。このサイトを知って、うれしく思います。

性別 男性
将来の夢 そこそこの健康と、そこそこの自由。
座右の銘 病は気から。

投稿済みの作品

3

緊急逮捕

17/09/18 コンテスト(テーマ):第144回 時空モノガタリ文学賞 【 事件 】 コメント:2件 与井杏汰 閲覧数:234

時空モノガタリからの選評

これは昨今の情報化社会の世相をよく生かした作品ですね。SNSを通じた連係プレーがなんとも鮮やかでした。ネットやSNSには、当然弊害と利点の両面がありますが、こんな風に良い意味で皆が協力していくツールとして活用できたなら、素晴らしいですね。事件を解決するのが特別にずばぬけた頭脳の持ち主という設定ではなく普通の若者であって、彼らが何気なくデジタルツールを使いこなして事件解決を導いてしまうところになんだかリアリティを感じました。デジタルネイティブの世代には、何事においても、ネットワークを駆使した物事の解決法が当たり前になる時代がくるのかもしれませんね。もちろんそれに伴って、犯罪の方もどんどん巧妙化するのでしょうけれども。ミステリー小説などのストーリーも、時代の変化に合わせてどんどん変わっていくのでしょう。
 
時空モノガタリK

この作品を評価する

その男が入った瞬間、支店内は凍り付いた。
明らかに銀行強盗だった。
覆面にサングラス、皮手袋には拳銃を持っていた。
最初に気づいた男性行員は即座に無音の非常通報ボタンを押した。
直後に「キャー」という悲鳴が店内の客から聞こえた。
覆面の男は、一番近い窓口に近寄ると、小さな声で言った。
 「金を出せ。2000万以上、すぐだ」

さすが窓口の女性行員は悲鳴こそ上げなかったが、顔は青ざめていた。
手元を震わせながら、それでも100万ずつ20束、ピン札で準備した。
男は奪い取るように現金を受け取り、カバンに投げ込むと、拳銃を店内中に振りかざし、周囲を脅しながら、入ってきた出口へ向かい、そのまま表通りを走り去った。

 「警察!110番! 防犯カメラの映像もすぐ準備しろ!」
犯人を最初に気づいた行員が叫ぶ。
 「あの… 今の様子録画してたんですけど…」
おずおずと大学生くらいの若者が申し出た。
 「無音で撮影できるアプリがあって、つい…」
行員がのぞき込むと、覆面の犯人が逃走する姿が映し出されていた。
 「ありがとうございます。警察が来たら提供いただけますか?」
と尋ねると、「はい」と若者は応え、続けた。
 「実はモード切り替えるの忘れてて、そのままネットに配信しちゃいました」
 「え?」と行員が驚いてると、外にパトカーがサイレンを鳴らして到着した。

 警察が事情聴取、聞き込み、防犯カメラの確認などを行っていると、外では早くもテレビ局が取材に来ていた。なんと、先ほどの若者は手際よくテレビ局の投稿サイトにもアップしていたらしい。
 駆け付けた刑事は無線で署と交信し、その間も鑑識が写真や足跡など痕跡の捜査を行っている。

 「君が事件の様子を動画で撮影したんだって?」
ベテランの刑事に聞かれると、若者は「はい」と答えた。
 「捜査に協力してくれるかね?」
 「もちろんです。でも、ちょっとだけ待ってもらえますか?」
と言うと、何やらスマートフォンを操作していた。
 『今の若い子はこれだからなぁ。こんな時でも誰かとメッセージか?』
心の中で刑事が嘆くと、若者が言った。
 「犯人見つけました」

 「は? 今なんて言った?」
刑事が驚いて聞き返した。周囲の銀行員も目を丸くしている。
 「すみません。犯人は繁華街を歩いて逃走中だったんですが、もう動かないと思います。お巡りさん、近くにパトカーとかいますか?」
 「何でそんなことわかるんだ! 本当に犯人なのか?」
 「あの、最初にネットに流した犯人の映像を見た僕の友人が、彼は画像解析とか得意なんですけど、服装とカバンの特徴から、街の情報カメラとか、付近のSNS投稿を探したんです。あ、もちろん公開されているやつだけですよ。そしたら、銀行出て覆面外した犯人が写っていて、顔まで写っちゃってて。で、友人が顔写真拡大して『銀行強盗の犯人、逃走中なう』って短文投稿に流したら、これまた見てた人から『目の前のこいつ怪しくね?』『尾行中なう』とか投稿があって、尾行の生中継してたら、結局どんどん尾行者が増えて、今、駅前でみんなでスマホのカメラ持って犯人を囲んでますよ」

刑事はあっけにとられていた。
すぐに思い出したように、「顔写真と場所、すぐ教えてくれ!」と叫ぶと、無線で連絡し始めた。

 「お手柄だね」
最初に通報した銀行員が若者を褒めると、「いえ」と謙遜した彼は、
 「でも、おじさん残念でしたね」
と言う。「え?」と怪訝な顔をした行員が聞き返すと、
 「おじさんも分け前もらう予定だったんですか?」
 「何の話だ?」
行員の顔が険しくなった。
 「犯人と友達なんでしょ? もうネット上では犯人の顔からSNSのアカウントがばれて、友人関係も洗い出されてますよ。僕の最初の動画に犯人とSNSで繋がっている人物がいる、って騒ぎになって、『これって共犯?』『普通知り合いの銀行に押しかけないだろ』って言われてます」

やがて刑事に連れられた銀行員は、おとなしくパトカーに乗り込んだ。
 「お手柄だね」
と刑事に褒められた彼は言った。
 「あの、手錠っていつもパトカーに準備してるんですか?」
 「は? あ、もちろんそうだよ。なんでだい?」
 「なんか、尾行してた人がネット通販のプライムサービスで手錠注文しちゃってて、もう届いたそうなんですよ。もし必要ならと思って」

 「最近のネット社会は警察いらずだな」
古参の刑事は、若い鑑識の肩をポンと叩くと、静かに現場を後にした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/11/11 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
スマホ・SNSで事件解決、実際にありそうですね。
普通の若者が普通にスマホを使い、その結果犯人逮捕。手錠の注文には笑ってしまいました。
とても面白かったです!

17/11/12 与井杏汰

光石七様
コメントありがとうございます。
実際にありそう、と思っていただくほど現実が進んでいるのだなと、あらためて思いました。
この作品自体は勢いで書き上げましたが、そのスピード感がそのまま表現されていると感じていただければ幸いです。
今後もジャンル問わず投稿していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

ログイン
アドセンス