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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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俺の上司が異次元の迷子な件

17/09/10 コンテスト(テーマ):第142回 時空モノガタリ文学賞 【 上司 】 コメント:3件 小高まあな 閲覧数:375

時空モノガタリからの選評

“異次元の迷子”とはSF的な設定ですが、日常的な視点からリアルな姿が描かれているところがユニークですね。これでは本人にとっては社会生活を送るのはかなり大変で、その苦しみは計りしれないことでしょう。先天性の機能障害などによって社会に適応しにくい人々がいますが、“異次元の迷子”はそうした人々の内面の葛藤ともどこかで重なるところがある気がしました。また深山さんのように完璧なキャラクターというのはえてしてどこか現実離れしてしまいがちですが、この欠点により、かえって人間的な魅力が感じられました。実際に完璧に見える人でも多少なりとも欠点があったり、本人の中では悩みがあったりするものだと思います。本作は好き嫌いで評価が分かれることがあまりなく、平均的に評価が高かった作品でした。

時空モノガタリK

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 深山凜子さんは、完璧に近い女性だ。
 アプリ開発を手がける会社に勤める俺の、上司だ。
 二十八歳で係長だし、作ったアプリはヒットするし、社長からの覚えも良い。優しいし、厳しいことも素直に受け入れられる言い方をしてくれる。背が高いし、スタイルいいし、美人。上からは一目置かれ、下からは尊敬されている。
 ただ本人にもどうしようもない、決定的な欠点がある。

 俺はパソコンの右下に視線をやる。十六時十分。それから、顔をあげて並んだ机から目的の席に視線を移す。
 やっぱり、いない。
 俺は片手をあげて、向かいの席の同僚に合図する。
「深山さん、知らない? 十六時から企画見てもらう約束してるんだけど」
 同僚は俺と同じように深山さんの机の方を見て、
「そういえば、お昼ぐらいから見てないけど」
 Googleカレンダーにもちゃんと「志田・企画確認」と書いてある。忘れられてはないだろう。
「また迷子じゃん?」
「やっぱり、それかなー」
 ということは、企画の確認をしてもらうのは何時になるだろうか。一つ、ため息をついた。

「志田くん、本当ごめん!」
 深山さんが俺のところに慌ててやってきたのは、十八時ごろだった。
「あ、いえ」
 いつものことですから、と思わず言いそうになるのを耐えて、
「大丈夫なら企画確認してもらえますか?」
「うん。本当、ごめんね」
 手を合わせて謝罪する姿が可愛いのがまたずるい。
 共有の打ち合わせスペースに深山さんと並んで移動する。
「っていうか、今回長かったですね」
 軽い気持ちでそう言い、横見て、
「あれ?!」
 隣にいたはずの深山さんの姿がそこにはなかった。
「またかよっ!」
 思わず大きな声がでた。
「どんまーい」
 通りすがりの同僚が、半笑いで言う。どんまいじゃねー。
 結局、定時まで深山さんは戻ってこなかった。めんどくさい。

 深山さんには、ひとつトンデモナイ欠点がある。それが「異次元で迷子になる」ことだ。
 無意識で別の次元に入り込むらしい。普通に歩いていて、ここではないどこかにいって、そのまましばらく戻ってこない。別の次元はこっちとは時間の流れが違うらしくて、深山さん的には五分ぐらいの出来事が二時間三時間ってこともあるらしい。逆に半日ぐらい経ったはずなのに、十分ってこともあるらしいけど。
 深山さんに会うまで知らなかったが、症例は少ないものの「神隠し症候群」という病気らしい。
 別の次元がどんなところかは、知らない。一度、飲み会の時に深山さんに聞いてみたけど、笑ってはぐらかされた。

 病気だから、一番大変なのは深山さんだ。
 だけど、上司が不定期にいなくなるのって、すっごい不便だ。今日みたいに約束をすっぽかされることも多々ある。
 深山さんが優秀なのはわかる。だから、病気のことがあっても、管理職なのだろう。だけど、部下に迷惑をかけてたら意味ないんじゃないか?
 何度もなんども振り回されて、最近は軽く深山さんのことが嫌いになっている。病気を理由に嫌いになっちゃいけないとは思うけど。

 そんな俺のもやもやは、意外な形で解消した。
 深山さんが会社に来なくなったからだ。
 出勤中に消えて遅刻することはあったけど、丸一日来ないなんてことは初めてだった。そのまま数日出社せず、深山さんの承認が必要な仕事は滞り、さらに上の上司が対処し始めた。
 総務の人が深山さんの自宅に行ってみたらしいが、誰もいなかったらしい。
 一ヶ月後、深山さんのご両親がお詫びのお菓子を持ってやってきた。
「急なことで皆様にはご迷惑をおかけして……」
 泣き腫らした目でそんなこと言われて戸惑った
 神隠し症候群が重症化すると、長期帰ってこないということがあるらしい。
「一ヶ月も戻ってこないということは、もうダメなんだと思います」
 ご両親が言う。諦めたように。
 深山さんの席は消え、俺の上には別の人がついた。
 今の上司は深山さんと比べるとちょっと能力がないけど、ちゃんといるので仕事はスムーズだ。不満は減ったけど、別の意味でもやもやしている。そんな大変な病気だなんて考えても見なかったから。
「深山さん、泣いてたからなぁ」
 飲んでいたとき、同僚が言った。
「残業中にこっそりと。不安だったんだうなぁ。ここじゃないどこかに飛ばされて、自分の体感とは違う時間が流れていて。いつか戻れなくなるかもしれないっていうことも、知ってただろうし」
 そんなの、俺は知らなかった。聞いてなかった。調べもしなかった。
 もやもやする。
 自分が可愛いだけだろ、と言われたら反論できない。それでも、思う。
 そろそろフラっと深山さんが戻ってこないかって。そしたら、ちゃんと謝るのにって。
 だけど、三年経って俺がその会社を辞める時にも、深山さんは戻ってこなかった。


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このストーリーに関するコメント

17/09/10 トツナン

拝読しました。
驚きの設定でした。神隠しに愛された彼女を受け入れるにはまだ社会は未成熟だったようですね。深山女史の28年間とはどのようなものだったのかと想像してしまいます。周囲とは違う時間・場所を歩んできて、有能で眉目秀麗な上司たろうとした彼女の、『本当ごめん』という言葉にはきっと字義的な意味以上の重みがあったことでしょう。面白かったです。

17/10/10 デヴォン黒桃

タイトルで、異次元物かと読み進めると、色々な状況に置き換える事が出来ると感じた。ドロップアウトする理由は様々あろうが、その問題点をこう表現するのかと一気に読みました。読後感は少し寂しくもありました。生きていく中で感じた事のある寂しさでした。

17/10/17 光石七

遅ればせながら、入賞おめでとうございます!
拝読しました。
タイトルからSFファンタジー系のライトノベルを想像していたのですが、とても日常的で身近に感じるお話でした。
深山さんの抱える病気と不安が、今の社会に存在する様々な障壁とそれゆえに大変な思いをしている人々に重なって見えました。
深山さんが戻ってきて主人公と再会できたらいいのですが。
素晴らしかったです!


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