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子への期待

17/08/13 コンテスト(テーマ):第140回 時空モノガタリ文学賞 【 育児 】 コメント:0件 いちこ 閲覧数:178

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連れて来られた女は、ひどく怯えていた。
もともと小柄なのだろうが、より一層小さく見えた。
それは、とても良い眺めだった。
「なぜ連れて来られたか分かるか?」
女は小刻みに首を振った。顔を上げようともしない。
「では教えてやろう。これまでのことも、これからのことも、全部」

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俺は、悪の組織を統べる一族の第18代目として生を受けた。
我が組織は、悪いことならば何でもやり、世の中を恐怖に陥れてきた。
特に初代の功績は抜き出ていて、その何も恐れず次々と悪事を働く人柄に惚れた者どもによってこの組織ができたのだ。

初代のころは、誰もが初代の名を恐れた。
名を聞けば、子供は泣き出し、女は息をひそめ、男は家の錠をかけたという。
2代目は優しく物憂げにしている人だったそうだ。
しかし、そんなことは我が組織の妨げにはならなかった。2代目が心を痛めるようなことをすれば良いのだと、行動の新たな指標になったのだ。
3代目は、頭は良くないがとにかく行動家で、活動範囲を劇的に広げた。
これにより広く知れ渡った我が組織は、次第に『悪魔の旦那方』と呼ばれるようになっていった。
5代目のあたりで、我々を恐れるのでなく敵対しようという者が現れ出した。
各地の王や貴族が討伐に報酬を出すと触れたのだ。
『勇者』や『冒険者』を名乗る者が次々とやってきたが、軽々と返り討ちにし、より一層我々の強さを広めることとなった。

雲行きが怪しくなってきたのは、15代目の時だ。
各地で戦争が相次ぎ、我々の出る幕ではなくなった。
放火をしようと、略奪をしようと、人を殺めようと、そんなことは兵士たちがやっていたのだ。何も特別でなくなってしまった。
戦争やその爪痕がやっと落ち着いた17代目は、何度か悪事を試みた。
だが、それは失敗した。
今度は世の中に悪人が増えすぎていたのである。
それまでであれば、悪人と大衆の差は大きかった。
ところが、普通の人間が簡単に人を傷つけ、道端にゴミを投げ捨て、女に暴力を振るう。そして普通の人間の顔をしている。
これだけ悪人が多くては、悪事をしても何も目立たない。
17代目は作戦を練った。悪人を全て我が組織に抱き込めば良いのではないか。
こうして18代目、俺が誕生した。

俺が12歳になった時、17代目はこの計画を説明してくれた。
だから、俺は翌日17代目に毒を盛った。
悪人を全て引き込むなど不可能だ。それよりももっと良い方法がある。
17代目は悪人としては程度が低かったのだろう、俺の毒であっさり死んでしまった。
でも、子育ては成功したのだと思う。俺のような人間が育ったのだから。

我が組織の者どもは、俺を歓迎してくれた。悪人らしくて頼もしいと称賛してくれた。
そこで、俺は皆に俺の計画を話し、協力を求めた。
俺の代は悪事をせず、善行を積め。そして悪事を行うやつらを取り締まれ。
20年。それだけの間に、一切の悪行のない世の中にしてくれ。
その世の中で俺は子をつくる。
19代目が再び世を恐怖に包む日をつくる、つまり、皆で19代目を育てるようなものだ。
どうか、我が子に協力してほしい。
こう伝えると、皆賛同して、奔走してくれた。

当初の計画よりも時間がかかってしまったが、これで25年が経つ。
平和で安らかな世界だっただろう?
俺は先日、できるだけ慈悲深く、か弱く、愛に満ちた女を連れてくるように命じた。
そんな女に悪を産ませる方が理想に近いからだ。

 -------

「こうしてお前は連れて来られたのだ。おとなしく我が一族に貢献せよ」
この女は我が子を産む。そして我が子は悪に育つ。
俺は我が子に、自分がしたように殺められるかもしれない。
しかし、そうなれば大成功だ。何よりも悪に育った証拠になる。
「……ました」
女が何か言ったような気がした。
見ると、女はおずおずとこちらを見上げていた。
「ご協力します。――私の一族は、悪に対抗することで力や富、名誉を得ておりました。ですが、この頃は悪人がいなくなり、長も困っております。
悪を産み、育てることは、私の一族のためにもなるでしょう。ですから、あなたのおっしゃるとおりに何でもいたします」
面白い。そう思った。
女が協力的なのは興醒めと思いはしたが、それよりも、面白いと感じた。
女の産んだ子が、悪に敵なす女の一族を滅ぼすのだ。その時のこいつの顔を楽しみにしていよう。
思いつめた表情で涙を浮かべている女を見下ろし、まだ形もない我が子を待ち遠しく思った。



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