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村崎紫さん

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被り物

17/07/17 コンテスト(テーマ):第138回 時空モノガタリ文学賞 【 猫 】 コメント:0件 村崎紫 閲覧数:259

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「あーぁ。もうやだー!」
溜めていた感情を近所迷惑にならない程度に上を向いて吐き出す。見上げた先は雲一つ無い満天の星空だったが、今の私の琴線には触れなかった。帰路にある人気の無い小さな公園はいつしか本音を吐き出す場になっていた。軽食と缶チューハイを買って夜風に当たりながら小腹と傷心を癒やす。私に必要な場所だった。どう見ても職質されそうではあるが、幸運にもまだそれは無い。
いつものベンチに腰かけ、手探りで缶を出す。プルタブを引くとプシッと小気味良い音が響き、そのまま一口飲んだ。ガサガサとビニール袋を漁っていると、近くの茂みからもガサガサと音が聞こえてきた。
「今日も来たね。」
顔を出したのはキジトラの猫。顔立ちは整ってはいないが、可愛らしい顔をしているので女の子だと思っている。私の本音を知る唯一の子だ。手のひらを出すと近付いて、ふんふんと匂いを嗅いでから指先をペロリと舐める。思い出してくれたのだろう。それに安心して顎下を軽く撫でると、そのまま全身を撫でさせるように体を滑らせ、立った尻尾でするりと手の甲を撫でられた。
最初にこの子に会った時は、警戒しながらも袋の中身を欲しそうにしていた。野良に餌はあげられないため、ごめんね、と撫でようとすると、気安く触らないで、とでも言うかのように噛まれそうになった。そんな事があった後もビニール袋の音に釣られるのか毎回来るため、私の他にも誰かここに来て、餌をあげているのだろうと推測する。食べ物はあげられないけども、来るたびに距離を縮めていき、今ではベンチに一緒に座り、私の話を聞き流しながらたまに撫でさせてくれるまでになったのだ。
食い意地がはっていて、警戒心が強いけど、慣れると一緒にいて癒されて、とても可愛い子。
「私も最初からお前みたいに本性出して生きれたら、可愛がられたかな。」
猫かぶり。いつしか私に身に付いていた処世術。
人付き合いが苦手なせいか、大人しく良い顔をしてしまうのだ。それが最初だけではなく、ずっと続いてしまう。被りに被って5匹くらいはいそうだ。想像すると頭が重くなってきたような。その時、パッと眩しくなった。
「こんばんは。こんな所に女性一人で危ないですよ。」
目を薄っすらと開けると、そこにはライトを向けるお巡りさんがいた。すると今まで隣に座っていた猫がお巡りさんにスルリと寄って行った。にゃあん、と高い声で鳴いて甘えている。私には見せてくれなかった姿。お前も来ていたのか、とお巡りさんが顎下を撫でるとうっとりしている。そんな姿も可愛らしい。
「お巡りさん、その子に噛まれそうになったことあります?」
「いや、無いですね。」
「私、最初に合った時、その子に噛まれそうになったんです。でも、いっしょにいてくれて、でも、その子のそんな甘える姿、初めて見ました。むちゃくちゃかわいいですね。」
何だか言いたい事がまとまらない。お巡りさんも困った表情をしている。それでも止まらなかった。
「そんな二面性があるのに、かわいくて、いいなぁ。って。うらやましいなぁ。」
猫をじっと見つめる。猫も私を見ていた。お巡りさんが口を開いた。
「本当はいけないんですけど、この子に餌をあげてたんです。たまにですけど。だから餌をくれる人と分かると甘えてたんじゃないかな。この子が生きていくための処世術なんでしょうね。でも、あなたには餌を貰えなくても近付いていった。よほどあなたの側が心地良いんでしょうね。」
鼓動が速くなってきた。飲み過ぎではないはず。
「あなたにも、きっとどちらの顔も好きになってくれる方がいらっしゃると思いますよ。」
何かがすとん、と落ちた。ビニール袋に空き缶を二本詰め込んで片付ける。
「ありがとうございました。帰りますね。」
「大丈夫ですか?近くまで送りますよ。」
「いいえ。大丈夫です。失礼します。」
最後に足元から、にゃおん、と可愛らしい声が聞こえた。


『続いてのニュースです。昨夜、殺人未遂の容疑で、27歳の会社員の男性を逮捕しました。被害に合ったのは22歳の会社員の女性。男は警官の格好をして近付いた。以前から女性の事は知っており、もっと近付きたいと思った。怪しまれたのが怖かったため殺害に及んだ。と供述しているとの事です。警察は、女性の回復を待って、詳しく事情を聴く方針です。』


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