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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。
性別 | 男性 |
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神罰
17/05/31 コンテスト(テーマ):第135回 時空モノガタリ文学賞 【 休日 】 コメント:10件 浅月庵 閲覧数:1311
複雑で緻密な構成で、内容的にも新鮮でした。「神」の視点で怠惰な人間の様子が観察されるというだけなら、さほど目新しい感じはしなかったと思うのです。単なる仮想現実の体験実験というSF的な内容で終わってしまっても、既視感を感じたかもしれません。「神」と人間と実験という三つの要素が入っていて、新しさを感じました。「神」が(おそらく)全能の神として設定されていながらも、「罰はおろか手助けも一切しない」という性格なのが面白いですね。また「あなた」の「孤独」の原因は神の罰などではなく、実際的な「非労働力者更正プログラム」実験であるために、神という俯瞰的な視点を用いながらも、抽象的すぎない内容だったと思います。いわゆる引きこもりの「あなた」が、「大勢の他者による労働の上で、自分の生活が成り立っていたことを痛感」していく過程は素直に良かったなと思えました。自分の「孤独」を神のせいにしようとする人間の愚かさも的をえていますし、二重に休日というテーマを盛り込んでいるあたりも上手いですね。これだけ複雑な要素をうまくまとめあげるのは、かなりすごいと思います。
時空モノガタリK



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このストーリーに関するコメント
17/06/01 待井小雨
拝読させていただきました。
非常に凝った作りの物語で、語り手が誰であるかの謎もあり、興味深く読み進めました。
「あなた」の結末だけに終わらず、おそらく「神」と呼ばれる存在の休みについても語られているのが凄いと思いました。
17/06/01 浅月庵
待井小雨様
構成に関しては今までで一番悩みました!
「あなた」のオチは終盤まで残しつつ、
最後に「神」のオチで締めかったので、
その部分にご感想頂けてとても嬉しいです。
温かいお言葉、ありがとうございます。
17/06/03 石蕗亮
拝読いたしました。
ラストの神の愚痴での終わり方がとても良かったです。また、神に同情も感じました。面白かったです。
17/06/03 浅月庵
石蕗亮様
神の一言で締めるのは決まっていたのですが、
休み云々の話で終わらせるか迷っていたので、
そう言って頂けると嬉しいです。
ご感想ありがとうございます!
17/06/24 瀧上ルーシー
拝読させていただきました。
話が二転三転して短編だとは思えないほど作品に奥行きを感じました。
面白かったです。ありがとうございました。
17/06/24 浅月庵
瀧上ルーシーさま
短い話のなかで状況、事態がコロコロ変わる
作りにしたら面白そうだな、と
半ば実験というか挑戦の意味も込めて書きました!
気に入っていただけて幸いです。
ご感想ありがとうございました。
17/07/02 光石七
拝読しました。
とても凝った面白い設定・構成で、オチの深さに感嘆しました。
神様も愚痴りたい時があるかもしれませんね。
素晴らしい作品でした!
17/07/03 浅月庵
光石七さま
構成はかなり頭を悩ませましたので、
お褒めいただいてとても嬉しいです!
何気ない瞬間に人は神頼みをするので、
その都度名前を呼ばれては疲れてしまうかも
しれません笑
17/07/03 滝沢朱音
入賞おめでとうございます!遅ればせながら読ませていただきました。
これはすごいですね…とても好みの作品だなあと思いました。
この内容で、タイトルを「神罰」とシンプルにした点も、素敵です。
最後の一文もよかった…!
17/07/03 浅月庵
滝沢朱音さま
ありがとうございます!
タイトルは最初から決まっていて、
無理に付け足すこともなく、直球勝負でいってみました。
最後の一文は、悩んだ甲斐がありましたb
ピックアップ作品
◇
“この世界は神が作った物語であり、現実離れした不測の事態も十分起こり得る”という結論まであなたは行き着いている。
それ故に、踠いても足掻いてもその指に空虚しか絡みつかないことを悟ると、涙を流しながら膝をつき、神への許しを請うのであった。
◇
母は日に二度、二階にあるあなたの部屋をノックし、食事を置いていく。
その行為は機械的であり、欠くことも時間を破ることもあり得なかった。
ただその日に限っては、規定の時刻を大幅に過ぎても、部屋の扉が叩かれることはない。
疑問に思ったあなたは、恐る恐る扉のレバーに手をかけた。
すると、家のなかは人の気配がなく、まるで成虫が飛び立った抜け殻のようであった。
そして疑問がもう一つ、あなたの愛するネットの世界が、完全に更新を停止しているのであった。
テレビに関しても、どれだけザッピングしても画面は砂嵐しか映さない。
異様な事態に飲み込まれている、と判断したあなたは、勇気を振り絞って外へと一歩踏み出した。
......世界が息絶えている。
それが、あなたが外気を浴びて真っ先の所感だ。
家々は形を保ったままそこに存在しているというのに、人ひとりすら歩いていない。生き物の気配をまるで感じられないのだ。
あなたは恥じらいながらも大声で、母親に悪態をつく時と同じように叫んだ。
残念ながらその問いに答える者はいない。
“まるであなたの日々は、終わりのない休日みたいなものです。そろそろ一緒に外の空気を吸いに行きませんか?”
これは母親が食事と一緒に残した、置手紙のメッセージだ。
あなたはその言葉に怒り、内側から発火するように暴れ狂った。
ーーその次の日だ。世界にあなた一人が置き去りにされたのは。
◇
二ヶ月が経過した時点で、更新されないネットにも、続きが読めない漫画にも、対戦相手不在のオンラインゲームにも、あなたは飽いている。
約二年もの間、外界との繋がりを完全に遮断したと思い込んでいたあなたは、ようやく今日まで大勢の他者による労働の上で、自分の生活が成り立っていたことを痛感する。
あなたは、一番身近にいた両親を、疎ましく感じていた日々を反芻した。
当たり前のように用意される母親の手料理を、もう二度と味わうことができない。
あなたを外の世界へ引っ張り出そうと苦心した、家族思いの父親はもういない。
あなたは両親への感謝を虚空に述べ、それと同時に自分の愚かさを呪った。
三ヶ月、四ヶ月と、無情にも時は流れていくーー。
あなたは気が狂いそうな精神を抑えつけ、何とか自我を保っていた。
ただこれは、社会の屑であり愚図である自分への神罰であって、突拍子もなくこの現状に陥ったのは、世界が神の綴った物語であるからだ、という境地にまであなたは辿り着いている。自分にはどうすることもできないのだ、と。
それでもあなたは、自己中心的な人生を悔い改め、姿の見えないものに向かって跪くと、このような永遠の休日は、もう自分には必要ないと喉を枯らした。あなたは天に向かって拝み、吠え続けた。
その内あなたは疲労困憊。体力と呼べるすべてが枯渇したのか、自宅の庭で気を失った。
◇
目が醒めるとあなたは、純白の空間に寝かされていた。どうやらそこは病室のベッドの上だった。
あなたは勢い良く半身を起こすと、椅子に座った父と母の姿を見つける。
あなたは両親の顔を見ると安堵したのか、赤子のようにわんわんと泣きじゃくった。
あなたは両親にごめんなさいと謝り続け、今後は心を入れ替えると、数度宣言した。
あなたは自身を、事故に遭い、長く悪い夢を見ていたのだと、勝手に結論づけている。
だが、それは間違いだ。
◇
院内にある会議室。そのモニターに、あなたたち家族の姿が映し出されている。
非労働力者更正プログラムと題されたその実験は、研究対象の脳を仮想現実へと送り込み、極限状態の環境へと追い込むことによって、人格を矯正させるという内容のものだ。
実験直後のあなたの様子からすると、どうやら結果は成功の部類に判別されるようであった。
◇
ーー種明かしは終わりだ。
あなたは幾度となく、自身の置かれている底なしの孤独を私の所為にしようとしたが、それは間違いであったのだ。
何とも罰当たりな人間だ。
そして、あなたが私の名前を呼ばない限り、私はあなたのその後を永久に知ることはない。
私はあなたたちが思っているより、ずっとあなたたちに干渉しない。
どれだけ祈りを捧げても、罰はおろか手助けも一切しないのだ。
だが、名前を呼ばれる度に声の主へ視線を向けなければいけないので、休みの一つでもほしいと、誰に言うでもなく思っている。