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犬塚比乃子さん

日々修行です

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誰が為にHIROSI

17/05/19 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:0件 犬塚比乃子 閲覧数:207

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 季節は夏も中盤にさしかかり、風鈴の涼やかな音に混じり低い音程の蝉の声がじりじりとたばこのフィルターが焼け焦げるような音程で鳴って、ああ今年も夏が終わりゆくのだという実感が湧いていた。
 蚊取り線香に火を点したリビングルーム内でのことだった。浩史は寝そべりながらふと思いついた。幼かったころテレビ番組で放送していた全国放送の正義の味方を本日付けの新聞に掲載されてあった番組表で調べると、ちょうどよい時間帯に再放送されることに決まっていた。
 ひさしぶりにお面ライダーでも見てみよう。
 お面ライダーとは、確かお面を被った正義の味方がバイクに乗って悪の組織や悪者を退治する話だった。
 自分もよく。と浩史は想いを馳せた。
 お面を被ったまま補助輪付き自転車に乗っては、よく親に危ないからと叱られたものだった。
 バイク自体は成人してからというもの乗り回すようになって久しい。お面ではなくフルフェイスのヘルメットを被ることこそ大きく違えど、平々凡々とした一介のブラック企業に勤めるサラリーマンになってうだつの上がらない人生に彩りを与えていることは確かだった。
 「お面ライダー、正義のお面。我ら黒い影は狙う、世界の平和を守り抜く。」
 時間帯を見計らってテレビをつけると昔見たとおりの映像に合わせてイントロが流れだすなか、バイクに乗ってお面を被ったスタントマンがハメコミ合成の派手な爆発と共に現れた。針金か何かで恰好をつけた赤いスカーフが向かい風にもなびかない。子ども心にスカーフに憧れたものだったが、それを大人になってから見ると滑稽でしかなくて浩史は頬に笑みをうかべた。
 自分の名前をローマ字で書くとHIROSI。英語でのヒーローという文字が入っていることが自慢だった。しかし、いじめられっ子だった幼少時に友人たちとヒーローごっこをするときには、自分はかならず悪役だったものだ。悪役の中でも偉い悪役を散々演じさせられたものだったから、当時は悪の総帥が大嫌いだった。感慨にふけりながら彼は愛用しているジッポーでたばこに火を点けてから、ガラス製の灰皿を手元に引き寄せる。
 「お面ライダー、お面ライダー。」
 テレビのスピーカーから流れるイントロも終盤へと差しかかったちょうどそのとき、休日だというのに携帯端末へとブラック企業ゆえにボスからの呼び出しがかかった。これから社へと急ぎゆかなければならない。Eメールの文章を見ると、
 ―正義のヒーロー出現。至急○○ビル十三階屋上へ全身黒タイツ着用で集合とのこと。
 と、表示されていた。
 そう。時は正義のヒーローが暗躍する時代。浩史が勤めていた悪の秘密結社からの呼び出しだった。
 
 


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