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ツチフルさん

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ただ珍しく面白く 月日の経つのも夢のうち

17/04/21 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 ツチフル 閲覧数:313

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 本来、皇女(みこ)の世話は平女たちの役目だが、いつも同じ顔ばかりでつまらぬと仰るので、しばらく華女が務めることになった。
 三月に及ぶ乙姫の親閲に付き添い、ようやく暇がでたと思った矢先のことである。
 華女がため息をつくのも無理はない。

 さて。世話と言っても、今年で十になる皇女は大抵のことをご自分でなさるので、華女の役目は皇女の退屈しのぎの相手を務めることである。
 宮中でも最古参である華女は、その知識と経験の豊さを披露して皇女を楽しませていた。
「本日は何をしましょう」
 その日。いつものように華女が尋ねると、皇女は目を輝かせて答えた。
「上の世を見てみたい」
 華女は微かに眉をあげ、皇女を見返す。
「誰からお聞きに?」
「母様。父様はこの国の者ではなく、上の世より訪れた者だって」
「乙姫様が…」
「それとね」
「それと?」
「その上の世を見つけたのは、華女だって」
 皇女に見つめられ、華女は苦笑する。
「ね。連れて行って」
「なぜ上の世へ行きたいのです?」
「…私は父様のことをよく知らないの」
「無理もありません。皇女様がお生まれになる前に、あの方は宮中を出て行かれましたから」
「だからね、せめて父様の故郷を見てみたい」
「…乙姫様はなんと?」
 華女が聞くと、皇女は頬を膨らませた。
「どうせ、だめって言うもの」
「でしょうね」
「……」
「つまり、私に内緒で連れて行けと」
「だめ?」
「と、言ったら?」
「一人で行く」
「それはご無理というもの」
 華女は微笑む。
「上の世は、道も知らずに辿り着ける処ではありません」
「…これでも?」
 笑う華女を見つつ、皇女は懐から一本の巻紙を取り出した。
「母様の部屋で見つけたの」
 広げられた巻紙を見て、華女は目を見開く。
 それは、上の世へ至る道が描かれた図であった。
 言うまでもなく、華女が記した物である。
「…盗んでこられたのですか」
「こっそり借りたの」
「それを盗むというのです」
「私、父様の故郷を見たい」
「……」
「ね?」
 華女は皇女の顔を見つめ、やがて観念したようにため息をついた。
「一度きりですよ」



「上の世とこちらでは、時の流れが大きく異なります」
 華女は皇女に説明する。
「どれくらい?」
「こちらの一年が、そう…。あちらの百年に相当しましょうか」
「百年!?」
「父君様はこちらで三年過ごされたのちに故郷へ帰られましたが、その時には三百年の月日が流れていました」
「……」
「あれより、さらに十年の月日が流れております」
 一年で百年。十年は…
「千年!」
「上の世も、あの頃とはすっかり違っています。それでもご覧になりますか」
「もちろん」
 皇女はすぐに頷いた。
「父様の故郷にはかわりないもの」 
 その満面の笑顔を見て、華女は目を細める。
「単に、退屈な宮中から抜け出したいだけのように見えますが」
 すると、皇女は笑顔のまま言う。
「お前はなぜ上の世へ行ったの?」
 華女は苦笑し、皇女を背に乗せた。



「…理想郷とはあのことね」
 宮中に戻った皇女がうっとり呟くと、
「かつては我々のほうが栄えていたのですが」
 華女は無念そうに言う。
「時の流れが違い過ぎるのです。こちらは十年の進歩。あちらは千年の進歩」
 二人が上の世で一日を過ごしても、宮中では十五分程しか経っていなかった。
 皇女はその時間のずれに大いに驚いたが、しかしそれ以上に、上の世の繁栄に心奪われていた。
 始めは刻々と色を変える空に感嘆し、見慣れぬ生物に感動し、理解を超えた車や飛行機に怯えていたのに、一度受け入れてしまうと、
「理想郷だわ」
 羨望だけが残った。
「それにしても…」
 皇女はふいに華女を見やる。
「お前は上の世にずいぶん詳しいのね。まるで何度も訪ねているみたい」
 華女は答えず、ただ微笑む。
「また行きたいな」
「一度きりというお約束ですよ」
「けち」
 皇女は舌を出し、それから懐の巻紙をそっと撫でた。



 華女が乙姫に付いて再び親閲に赴くと、皇女の世話は平女たちに戻った。
 その平女たちが何やら囁きあっている。
「近頃、皇女様のご容姿が急に大人びられた」 
「十になられて間もないのに、まるで成人の儀を終えられたかのよう」
「育ち頃とはいえ、ああも成長されるものか」
 そこへ、見廻りの海女隊がやってくる。
「皇女様がまた晦まされた」
 それを聞いても誰も驚かず、ため息をつくばかり。
「毎度毎度、何処から抜け出し何処へ行かれるのか…」
「ご容姿が大人びられた因は、さてはお出かけ先にあるぞ」
 海女隊の一人が冗談めかして言うと、
「皇女様が次に戻られた時には、老婆になられいるやもしれんな」
 平女は顔をしかめて呟き、わずかな間をおいて宮中は笑いに包まれた。


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