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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 魁! 不労所得!
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世捨て人ツアー

17/04/21 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:152

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〈世捨て人ツアー〉参加者一挙大募集!
 いまの地球に嫌気が差していませんか? 百十億人を突破した信じられないほどの人口密度、タキオン通信によって過剰に加速するビジネスシーン、はびこる遺伝子組み換え作物、世界中で起きている戦争。
〈世捨て人ツアー〉はタキオン駆動船〈トライアンフ〉(合衆国退役艦払い下げ品)に搭乗していただき、相対論的効果によってまだ見ぬ未来へ一足飛びにお客さまをご案内するサービスです。かのアインシュタインが予言した通り、超高速で動く物体に乗れば一秒が一時間に、一時間が一週間に!
〈トライアンフ〉は火星軌道付近でタキオンドライヴを駆動、一気に光速の五十三パーセントまで加速します。太陽系外縁を覆うオールトの雲をかすめ、すばらしい彗星の巣をご鑑賞していただいたのち、地球へ帰還します。
 船内時間でおよそ二年、外部時間でざっと二世紀の飛躍。すべてのしがらみを忘れ、輝かしい未来の地球で新規まき直しをしてみませんか。
※各種金融商品の投資信託サービスあり。
※火星、ガニメデ衛星などの各種植民地途中下車サービスあり。
※本契約にあたって、弊社はいかなる責任も負いかねます。あらかじめご了承ください。

     *     *     *

「よお、兄ちゃん」舷窓から地球をぼんやり眺めていると、野卑そうな声が上から降ってきた。「あんたも例のツアー客かい?」
 振り向くと大柄で毛深い中年の男がにやにやしているのに出くわした。誰とも話したい気分ではなかった。ぶっきらぼうに、「どうもそうらしいですね」
「ずいぶん若いようだが、もう人生に絶望しちまったのかい」
「いまの地球に倦むのに早すぎるってことはないでしょうよ」
「話してみろよ。お前さんが二世紀後への逃避行を決断した理由をさ」
 わたしは黙っていた。なぜ赤の他人に恥をさらす必要がある?
「俺はな、兄ちゃん」聞いてもいないのに話し始めた。「為替取引を仲介してたんだ。地球−火星間の変動レートの利ざやで儲ける手口だな。やくざな商売だよ実際。超光速のタキオン通信を使えば火星での変動利率を尋常の筋よりも早く知ることができる。あとはわかるな」
 あとはわかった。タキオン通信には目の玉が飛び出るほどのチャージが課されるが、この男はそれを支払っても余りあるほどの利益を掠め取っていたのだろう。誰よりも早く――たったの四分ほどでも――最新情報を手に入れられるというのは、変動の激しい火星相場において途方もないアドバンテージらしい。
「で、そうやって横から横へ電子マネーを動かして小金持ちになって、どういう気分になったと思う」野卑な男は肩をすくめた。「虚無だよ。俺はなにやってんだろうなって、急にそう思えてきた。気づいたらこの船のチケットを握りしめてたって寸法よ」
「わかるような気がしますよ」
「どうだかな。まあいいさ」ぽん、と肩に手を置かれた。「次はあんたの番だぜ」
「結婚しようって、そう誓ったはずでした」まったく話すつもりはなかったのに。「彼女を責めるつもりはないし、ほかに好きな男ができたのはぼくに魅力がなかったから。そうでしょうが?」
 ブローカーはわざとらしく頭を掻いている。
「笑ってください、女の子に振られたくらいで地球を見限る偏狭な野郎だと」
「女なんざ星の数ほどいるもんだ」おっさんは舷窓の外を身振りで示した。「あんな具合にさ」
「単に女性というくくりではそうでしょうね」
 お前には呆れたというニュアンスのため息。「ロマンチックじゃないか、坊や」
 穏やかな沈黙が訪れた。わたしはこれ以上話すつもりはないし、向こうもそれを察してくれるだろう。
「浦島太郎になったあと、なにがお前さんを待ち受けてるか、その覚悟はできてるんだろうな」
 なんというお節介なおっさんだろう。「さてね、二世紀間のジェネレーションギャップかなにかですか?」
「想い人の子々孫々とのご対面さ。お前さんじゃなしに、べつの野郎とのあいだにできたガキどもとのな」
 その光景は実に不愉快にちがいない。「で、ぼくにどうしろってんですか。彼女との関係はもう終わったんです」
「お前さんも男なら、なんで最後まで戦わない? 未来なんかに逃げてなんになる」おっさんは親しげに背中をどやしつけてきた。「失敗したっていい。もういっぺんくらい全力でぶつかったって罰は当たるまいよ。ちがうか?」
 返す言葉が見つからない。
「さあいけ」やつはわたしからチケットを奪い取り、あげくに破り捨ててしまった。「そしてお前さんの子どもたちに俺のことを話してくれ。かつてご先祖にお節介を焼いた男がいたってな」
 涙をぬぐった。「きっとそうしましょう」

 軌道ステーションから〈トライアンフ〉が出港するのを眺めたあと、わたしは頬を二度、景気よく叩いた。「さあ、悪あがきしてみるか!」


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