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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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SWEET SMILE

17/04/15 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:4件 文月めぐ 閲覧数:829

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 教室に入ってきた咲は、全身びしょ濡れだった。またトイレで水をかけられたのか、とうんざりした。上級生の棟にあるトイレを使えと言ったはずなのに。
 「濡れ狐」と誰かがぼそりと言うのが聞こえた。クスクスという笑い声も。「茶色い狐は山に帰れ」とはやし立てる声もある。咲の長い茶髪は、それだけで、いじめの対象になるには十分だった。小学生の時は仲良くしていたのに、中学校に入ったとたん、掌を裏返すかのようにいじめる側に回ったやつはたくさんいた。咲が小さな声で「地毛なんだよ」といくら説明しても、誰も聞く耳を持っていなかった。
 咲が体操服を持って教室を出ていくと、どっと笑いが起きた。俺はそのすべてを聞こえないふりして、本に目を落とす。内容は全く入ってこなかった。

 「このキャンディ、一番早く食べたやつ、ラッキーだからな」
 休憩時間になると、石川が色とりどりの棒付きキャンディを男子に配りだした。最近の流行は、先生に隠れてお菓子を食べること。特に男子の間では、この大きな棒付きキャンディが人気だ。派手なパッケージが「かっこいい」と言われている。
 石川の「せーの」という合図で男子が一斉に飴を口に含む。気は進まないけど、俺も一応飴を食べる。男子全員が口から棒を突き出した姿は、滑稽だと思う。実際、一部の女子はあざ笑うかのように冷たい目で俺たちを見ている。
 「そんな大きいやつより、こっちの方が可愛いんだって」
 女子のリーダーである鎌田が取り出した飴は、小さなミルクキャンディ。飴の包み紙には花のイラストが印刷されていて、女子が好きそうな感じだ。
 「お花が十個あった子はラッキーだからね」
 包み紙を丁寧に解き、真剣に花の数を数えだす。咲はその女子の集団には入れない。いつも隅っこの席に座って、俯いている。誰とも目を合わせないためだ、とは容易に想像がつく。

 咲の家は母親しかいなくて、ちょっと貧乏だ。だから中学生になったってお小遣いはもらえないし、お菓子だって買えない。
 学校から少し離れて、クラスメイトが見えなくなると、俺と咲は並んで家まで帰る。家が隣同士なんだから最初から一緒に帰ればいいのに、優しい咲は「弘彰くんまでいじめられちゃうから」と言って、学校で話すことさえ許してくれない。
 「ちょっと、駄菓子屋寄っていい?」
 コンビニは高いからダメだ。駄菓子屋なら小さいお菓子が所狭しと並んでいる。咲のためにお菓子を買ってあげたい、と思ったのはほんの気まぐれだ。大きな棒付きキャンディなら、時間をかけてゆっくり味わうことができるし、ストロベリー、グレープ、チェリーなど種類も豊富だ。一方のミルクキャンディは優しい甘さが咲にぴったりに思えた。
 「咲、棒付きキャンディとミルクキャンディ、どっちが食べたい?」
 単刀直入に質問すると、咲は少し困ったように二つを見比べている。こんなにいっぱいのお菓子を目の当たりにすることのない咲だ。じっくり考える時間をあげたっていい。すると意外と早く「私……」というか細い声が聞こえる。
 「私、これが食べたい」
 小さいけれど、凛とした声が耳に響いた。咲の声は鈴が転がるようで、心地よい。しかし、彼女が指さした一角にあるものは、地味なパッケージの、なんの変哲もない板チョコだった。
 「咲、本当にこれでいいのか?」
 俺の訝る声に、笑顔で「うん」と答える咲。濃い茶色一色に塗られたパッケージは、あまり学校では人気がない。だけど、小さな板チョコを手にした咲は本当に幸せそうな顔をしていた。
 「だって、飴は一人で食べるものだけど、チョコレートなら、弘彰くんとわけっこできる」
 ぱきん、と、チョコレートの割れる小気味よい音がした。包みを破いて現れたお菓子は、学校で食べるものよりも控えめな色をしているが、カカオの良い匂いが漂ってくる。
 口に入れたチョコレートは甘ったるくて、じんわりと溶けていく。それが咲のくれた優しさのように感じて、俺はうれしくなった。
 「弘彰くん、連れてきてくれてありがとう」
 そう言って微笑んだ咲の笑顔を、俺は消してはいけない。彼女をクラスメイトから守れるのは俺だけだ。舌に絡みついたチョコレートの苦みは、俺に現実の苦悩を教えるかのようだった。


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このストーリーに関するコメント

17/04/20 夏日 純希

少し苦味が強いチョコレートな作品ですね。
チョコレート割って渡してくれるシーンがいいですね。

17/04/21 文月めぐ

夏日 純希様
コメント投稿してくださり、ありがとうございました。
飴ももちろん良いけれど、チョコレートの少し苦みを伴った甘さが伝わるような作品にしたいと思って書きました。
チョコレートを渡すシーン、気に入ってもらえてうれしいです。

17/05/25 光石七

拝読しました。
いじめを受けながらも優しさを失わない咲が健気ですね。チョコレートを選んだ理由にほろりとしました。
甘さの中に苦みもあるチョコレート。現実は大変だと思いますが、主人公には咲の盾、味方であり続けてほしいです。
素敵なお話をありがとうございます!

17/05/25 文月めぐ

光石七様
コメント投稿してくださり、ありがとうございます。
きっと弘彰はずっと咲の味方です!
素敵なお話と言っていただけて、うれしいです。

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