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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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飴玉1つでみた地獄

17/04/11 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 ちほ 閲覧数:410

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 高校2年生ともなれば、学校生活にも慣れ余裕が出てくる。1時間目が始まるほんの少し前、私は制服のポケットに手を入れて、そこにコーラの飴が1つ入っていることに気がついた。1つ20円で売っている大きな飴だ。昨日、ゆりちゃんにもらった。食べてしまおうか? うん、口に入れておけば先生にはばれないって。ポケットの中で包み紙をゴソゴソと取ってしまう。先生がガラリとドアを開けたと同時に、口の中へ放り込む。
(パックン!)
 ん? 
(スッポン!)
 うわっ! 喉に詰まった! 喉の奥と飴の大きさがほぼ同じだったのだ!! やばい! …………うぅ、飲み込めないっ。よし、口から取り出そう。あ、それも無理だ! 空気空気空気! 微かに呼吸はできる。けど、めちゃくちゃ苦しい! いつもの10分の1くらいしか息ができない。授業は、とっくに始まっている。苦手な英語だ。今日は、いつも以上にわからない。てゆーか、それどころではない。冷や汗が流れる。私、やっぱり死ぬのだろうか? 大きな飴の包み紙には『お子様やお年寄りの方は気をつけてください』あるいは『お子様やお年寄りの方は食べないでください』って書いてあったかもしれない。それって高校2年生は食べても大丈夫ってこと? わからないけど、『飴が喉に詰まって死にました』じゃ、私は笑い者よ! お子様やお年寄りの方は、ものすごく同情されるだろうけど、私は……。ここで死ぬわけにはいかない! こんな理由で死にたくない! 
 先生が、私に目を向けた。不思議なものでも見るように私を見ている。私の頭は高速で考え始める。どうすれば、この危機を先生に知らせることができるかを。飴のせいで声は出せない。黙ったままでわかってもらうには……。と、私は非常に真剣に考えているというのに、先生はとんでもないことを言う!
「一子、トイレか?」
 クラス中が大爆笑する。英語をどうしても理解できない私に、先生は呆れ果てた末、最近は授業中に私をからかって遊ぶようになった。トイレのことも、きっとからかい半分だ。女らしくないとはいえ、一応乙女である私に対して、よくもそんな恥ずかしいことを言えるわね! こっちはそれどころじゃないってのに! 怒りで目から火が出そうだ。たぶん、息がほとんどできないせいもあって、顔は真っ赤に染まっていると思う。これじゃあ先生がトイレだと勘違いしても無理はないだろう。が、なんでトイレ以外のことを思いついてくれないのよ! …………思いつくわけないか。こんな滑稽なことで死にそうになっているなんて。 
 あぁ、もう授業が開始してから30分経ったよ。いい加減どうにかしないと。私は、勉強しているふりをしていた。ふりをしつつ、どうしようと考える。もちろん冷静に考えているのではない。かなりパニックに陥っていた。ほとんど息ができない。とっても苦しい。でも、それでも人間は生きられるのね。結構自分もしぶといと感心するわよ。時々チラリとこちらを見る先生。まぁ、ゼイゼイと息しているのだし、いつもなら受け止める軽口にも付き合ってあげてないし。あ……私、もしかして危ない人だと思われている?
「一子、何を考えているんだ? なんか変だぞ」
 先生が、困惑した顔で言う。その時、私は閃いた。シャープペンシルを手に取ると、ノートに大きく「アメ」と書いて、先生に指し示す。書いたといっても、集中力が欠けているから、へろへろとしたミミズのような字だ。
 先生は、しばらくそれを見つめて考えていたが、どうやら答えを出したようだ。
「立て!」
 言われたとおりに、頭がガンガンしつつもフラフラと立ち上がった。先生は、いきなり私の背中をドン!と強く叩いた。私の口から大きな飴が勢いよくポーンと飛び出す。それは黒板にカツンとぶつかって、床に落ちてからコロコロと転がった。私は自分の席にへたり込んで、顔を伏せつつ深呼吸を繰り返す。
「助かったぁ。死ぬかと思った!」
 この喜びを、誰かと分かち合いたい。顔を上げると、先生が呆れた顔をして大きな飴を私の机の上にトンと置いた。
「一子、授業中に飴で遊んでいたのか!」
「いえ、遊んでいたんじゃなくて、生きるか死ぬかで……そう、闘っていたんです、私!」
「誰と?」
「自分自身と!」
 あ、なんかカッコいい! と思ったら先生の拳が頭にガツンと落ちてきた。
「痛いですっ!」
「生きててよかったな。さて、これで落ち着いて授業ができる。飴は持ち帰りなさい」
 私は、大きな飴を見た。持ち帰ったところで、地獄を思い出すだけだ。
「飴で遊んで死にそうになり、授業どころでなく、英語教師に救われたという記念にな」
 先生が、にやりと笑う。学校中に噂を流す気満々な顔。やっぱり私、笑い者になるんだわ!
「あ……飴なんか大嫌いだーーっ!」
 でも、アホな自分が一番嫌いだわーーっ!
 


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