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深海映さん

短編やショートショートが好きなモノカキ民

性別 女性
将来の夢 星の見える田舎で晴耕雨読の暮らし
座右の銘 飯は食いたい時が食い時

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失敗だらけの人生

17/03/13 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:0件 深海映 閲覧数:296

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 思えば俺の人生は失敗だらけだった。
 40近くになっても彼女はできない、それどころか友達すらいない、体も病弱、とどめに先週仕事もクビになった。もう生きてる価値なんかないんだと、思うには十分すぎた。

 だから俺は、死んでやることにした。このくだらない人生に終止符を打つことにしたんだ。

 「だから死んだの?」

 俺はビルから飛び降りた――ような気がしたのだが、気が付くと目の前には白いワンピースを着て、白い羽をはやした、黒髪の美少女が居た。羽が生えてる。ってことは天使か? でもどう考えても俺は天国よりは地獄に行く方がふさわしいと思うんだが。

「ああ」
 
 ともかく俺は返事をした。

「こんなクソったれな人生からはおさらばさ」

「それは、人生がもし違ったものだったら生きていてもいいってこと?」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、違う人生を送らせてあげる」

 そう天使が言い、なにやら呪文を唱える。

 見る見るうちに、俺は男子高校生の姿に戻っていた。

「――ねえ、石井くん、聞いてる?」

 目の前にはセーラー服を着た黒髪の美少女。どうやら俺は高校生に転生したらしい。

「どこの大学に行くのって聞いてるの」

「ええと――」

 俺は目の前のプリントを見た。そこには模試の結果が書かれていて、それによると俺はかなり頭がいいらしい。

「A大学」

「えーっ、すごーい!」

 美少女はひとしきり褒めた後、少し頬を染めて言った。

「でも、東京かあ。遠いね。大学に行っても浮気しないでね」

 どうやら俺は、この美少女の彼氏らしい。
 俺たち二人は、制服のまま近くの公園でデートしたり、遊園地へ行ったりして楽しい高校生活を送った。

 充実した高校生活を終えた俺は地元を離れ東京の大学に行き、そこで大学生活をエンジョイした。友達と麻雀したり、スキーサークルに入ったりと楽しい日々。
 彼女ともまだ続いていて、彼女は東京に来るたび実家があるという秋田のリンゴジュースをお土産に持ってきた。

「はいこれ、好きでしょ?」

 確かに、このジュースは甘味の中にほんのりと酸味が利いていて絶妙に美味い。

「青森じゃなくて秋田なのにリンゴなんだな」

「りんごといえば青森が有名だけど、秋田だってリンゴの味なら負けてないわ。他にも、サクンボんかも山形が有名だけど秋田だっておいしいさくらんぼがたくさんとれるし、お米や魚もおいしいし……」

 彼女はむきになって言う。まあ、同じ東北だし、気候はそんなに変わらないのかもしれない。

「じゃあ、きみと結婚すればこういうものが実家からたくさん送られてきて、常に美味しいものが食べれるんだね?」

「そ、そうかもね」

 俺が言うと、彼女は顔を真っ赤にする。

「実は、おなかの中に子供が……」

「そうなのか⁉ やった!」

 彼女が大事そうにお腹をさする。

「私の大事な赤ちゃん、あなたのパパよ」

 そして、大学卒業と同時に、俺たちは結婚した。妊娠している彼女の為に、結婚式は挙げず、おなかを隠すようなゆったりとしたドレスを着て、二人は結婚記念の写真を撮った。

「ほら、よく撮れてる」

 彼女が俺に現像したての写真を見せてくる。その写真を見た瞬間、俺はあることに気づいた。

「だましたな。これは俺の人生じゃない」

 俺は思い出したのだ。これと全く同じ写真が実家の居間に飾られていたということ。

「これは父だ。俺の父の人生だ」

 俺は、自分の人生をやり直したわけじゃなかった。俺が幼いころに死んだ父。その人生を、俺は追体験していたのだ。そして俺はこの後の顛末を知っている。この数年後に、父は交通事故で亡くなる。母さんは、女手一つで俺を育てることになるのだ。

「その通り」

 すると美少女の姿は、見る見るうちに、数年前に亡くなった母さんの姿に変わった。

「あんたはまだこっちに来るほど上等な人生を送っちゃいない。せめて母さんに誇れるような人生を送ってからこっちへ来るんだよ。さあ、帰ってやり直すんだ」

  目を覚ますとそこは病院で、俺は死ぬのにも失敗したんだと気づいた。
 キラキラと朝日がまぶしく、窓の外には目がちかちかするような新緑が広がっている。ベッドの脇には秋田のリンゴジュース。多分叔母さんあたりが、俺が目を覚ましたら飲ませるつもりで持ってきたのだろう。

 俺がリンゴジュースを飲み干すと、のどに張り付くような甘酸っぱい、日差しの味がした。そして思ったんだ。世の中にこんな美味いもんがあるんなら、あともう少しだけ、生きててもいいかなって。

「私の大事な赤ちゃん、元気で生きて」

 遠くでそんな少女の声が聞こえた気がした。
 


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