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吉岡 幸一さん

性別 男性
将来の夢
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カメラが生えてきた

17/03/06 コンテスト(テーマ):第101回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:339

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 三十歳の誕生日の朝、目覚めると俺の右目がカメラになっていた。眼球がレンズになって飛び出ている。瞬きをするたびにパシャパシャとシャッター音がして、脳内に静止画像が保存されていく。左目は何ともなかったので、両目を開いているととんでもなく疲れた。
 急いで病院に行ったが、医者は「どこも悪くないですよ」と、軽く診察しただけで高額な医療費を取って笑っただけだった。
 瞬きをするたびにパシャパシャとうるさいので、薬局で眼帯を買ってつけて帰ると、夜勤明けの妻が眠そうに欠伸をしながら風呂から出てきた。
「かっこいいじゃない」
 右目に眼帯をつけた俺を見るなり妻は言った。まるっきり心配なんてしてくれなかった。
「見てくれ、右目がカメラになってしまったんだ。ほら、レンズが見えるだろう」
「わたし夜勤明けで疲れて帰ってきたの。看護師の仕事がハードなの知ってるでしょう」
 妻は不機嫌そうに言うと、冗談には付き合っていられないといった感じで俺の腕をたたいた。
 疲れていて確かめる気力も残っていないのだろう。妻の眠りを妨げないために俺は外に出た。三軒隣りの交番に行くと、顔見知りの警官に眼帯をとって右目を見せた。
「カメラがいつの間にか埋め込まれているんですよ。俺が寝ている間に誰かがしたんだ。これって犯罪ですよね」
 警官は右目を覗きこみながら困ったように頭を掻いた。
「カメラなんてありませんよ。まいったな、警察官をからかうと逮捕しますよ」
 愛想よく言いながらも目の底が笑っていなかった。
 俺は慌てて交番を出ると市役所の市民課に駆け込んだ。窓口の眼鏡をかけた女性職員に事情を説明すると眉をしかめながら案内図を指さした。
「こういったお話は市民課の管轄ではありませんので、福祉課に行かれてください。二階のこちらになります」
 仕方がないので福祉課に行くと「福祉課ではなく、広報課に行かれてください」と言われ、広報課に行くと「ハローワークに行かれてはどうでしょう」と言われた。
 別にカメラマンの仕事を探しているのではないのだが、せっかくの紹介だから俺はハローワークに行ってみた。
すると、窓口の気難しそうな職員は面倒そうにボールペンで鼻の頭をこすりながら「病院にでも行かれたらどうですか」と、言うので「もう眼科には言ったんです」と、答えると「眼科ではなく、精神科のほうですよ」と、怒ったように言ったので、俺は慌ててハローワークを出た。正直、職員の顔が怖かった。
こうなったら道を歩いている人に適当に声をかけてみようと思って、四つ角で信号待ちをしている女子高生に声をかけると、悲鳴をあげて逃げられた。本屋の前でスーツ姿の会社員に右目を見せれば舌打ちされ、花屋の可愛らしい店員に話しかければ俺の話なんて聞かず薔薇の花束を売りつけられた。
どうやら俺の右目のカメラは俺以外には見えないらしい。いや、そんなはずはない。公衆トイレに入って鏡に写せば俺の右目ははっきりとカメラになっていた。最初は目の玉がレンズになっているというだけだったが、今覗いてみれば、黒い一眼レフそのものが生え出て右目の位置に埋まっている。瞬きしなくても眉毛のあたりに飛び出たスイッチを押せばシャッターがパシャパシャと切れていく。
誰がどうみても右目はカメラだった。俺は気が狂いそうだった。カメラ本体が時間を追うごとに浮き出してきているのだ。引き抜こうと引っ張ったが激痛がはしり断念した。
「頼むから見てくれ、俺の右目にカメラが生えてしまったんだ」
 眼帯を投げ捨てた俺は駅前で叫んだ。しかし人は俺を避けて遠くを歩いて行くばかりだ。誰も俺に近寄って来ない。
 見捨てられた犬のような気持ちで俺は家に帰った。寝て機嫌のよくなった妻は満面の笑顔で俺を迎えてくれた。「お誕生日おめでとう」と、言いながら玄関先でクラッカーを賑やかに鳴らした。
 すると俺の右目に生えたカメラがポトッと床に落ちたではないか。
「あら素敵なカメラを買ってきたのね」
 妻はそう言いながらカメラを拾い上げると、テーブル上のケーキの前に俺を立たせて、そのカメラで写した。パシャパシャと景気よくシャッターがおりる。
 俺は花屋で押し付けられた薔薇の花束を妻に渡した。妻は不思議そうに「あなたの誕生日なのに私がお花をもらうなんて変ね」と、笑いながらカメラでその花も写していた。


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